バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ

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大エルミタージュ美術館展 - オールドマスター西洋絵画の巨匠たち

エルミタージュ "Hermitage"

フランス語で、「隠れ家」という意味。

バレエでも華々しい街である、ロシア・サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館。

その絵画コレクションが六本木の森アーツセンターギャラリーで展示され、鑑賞してきました。

http://hermitage2017.jp/outline.html

ドイツに生まれロシアの女帝となったエカテリーナ2世

ミュージアムに入るとすぐに、大きな存在感を放つ女帝の肖像画が飛び込んできました。

ウィギリウス・エリクセン《戴冠式のローブを着たエカテリーナ2世の肖像》 1760年代

この1枚だけ撮影OKでしたので、みなさんスマホをとりだしてカメラにおさめていました。

この女性エカテリーナ2世が、エルミタージュ美術館のコレクションを偉大にさせた女帝(在位1762〜1796)。絵の描き方もやや物々しく、権威を感じさせるオーラでした。

きっかけは、在位して2年後の1764年に、ベルリンの実業家から317点の絵画コレクションを手に入れたんだそうです。いったいどのくらいの財産なのか想像もできませんが… その後も歴代で国家をかけて美術品収集を続けていたので現在のような偉大なコレクションになったそうです。

実際のコレクションには、ロシア以外のどこかの貴族・王族(?)の肖像画を描いた画家が、貧困で買ってもらえなかったというエピソードつきの絵もありました。

やっぱり国の大きさを感じます。バレエもあれだけ国家の文化として力を注いでいるだけに。

美術館フランス語で「エルミタージュ」(隠れ家)という名前を名付けたのもエカテリーナ2世だそう(うろ覚えですがたしか)で、芸術全般に興味があったようで、美術品だけでなく、バレエ鑑賞もたしなんでいたそうです。

彼女はもともとドイツ(プロイセン)人で、地方の貴族の家に生まれました。

それが、ロシアという大国の皇太子と16歳で結婚することになり、33歳で女帝として継承することになるのです。(エリザベータ女帝が崩御し、夫ピョートルが皇帝に就くも、謎の死…)

なんだか、すごい人生ですよね。マリー=アントワネットも彷彿とさせるような。

国を背負って異国に嫁ぎ、ロシア語を身につけ、宗教もロシア正教を信仰し、一国を統治する立場になるということは本当にすごいことだったのだろうと察します。

「オールドマスター」とは

この美術展としては、エカテリーナ2世の人生というよりは、エルミタージュ美術館の豊富なコレクション(17000点以上)から、歴史の流れにそって16世紀〜18世紀を中心にした名作を楽しめる流れになっていました。

企画展名につけられている「オールドマスター」とは美術の用語で、18世紀以前に西洋で活躍した偉大なアーティストたちのことを指し、エルミタージュ美術館にはそれらが特に充実して所蔵されているんだそうです。

私がいくつか心に残った絵があります。

まず、一番気になっていた絵がこちら。

ジャン=オノレ・フラゴナールとマルグリット・ジェラール《盗まれた接吻》

ポスターにもなっていました。

ふいに現れたような男性が女性に口づけをしている瞬間。勝手に大きな絵なのかなと思っていたのですが、実際の絵はさほど大きくなく、むしろ至近距離に近づいてのぞき込みたくなるような絵でした。右奥には、隣の部屋がこちらをのぞかせています。

リアルにみると、人物が美しいのはもちろんですが、サテンのような光沢や絨毯の糸目の質感がとてもリアルでびっくりしました。印刷物にするとよくわからない(むしろリアルすぎて気がつかない)んですが、実際のカンヴァスはとても忠実に布地のてざわりを表現していました。

これを描いた画家はジャン=オノレ・フラゴナールという男性ですが、彼が大方描いたのちにマルグリット・ジェラールという女性画家も加筆し、2人で製作したのではないかと見られているそうです。

あとは、ポンペオ・ジローラモ・バトーニ《聖家族》(下の画像で右)と、フランシスコ・デ・スルバラン《聖母マリアの少女時代》(画像左)です。

《聖家族》は、やわらかい躍動感と幸福感を覚えました。宗教画というと、少し荘厳で近寄りがたい印象になるものもありますが、赤ちゃんがうまれてみんなで祝福する一家族のように、親しみを感じて心に残りました。

《聖母マリアの少女時代》は、聖母マリアが少女時代であったときの絵を見たのは初めてで、ぐっと見つめてしまいました。どこか儚げに空を見つめているようで、でもあどけない可愛らしさと、従順さも感じられて、現代のわたしたちにも悩みも抱えながら生き抜く気持ちにちょっと共感してしまうような絵でした。実際に、来場者の中でも人気が高そうでした。赤い服はキリストの殉教を示唆しているそうです。

全体を通して、エカテリーナ2世が「隠れ家」と名付けたように、ゆっくりと自分の心を落ち着かせて感性を研ぎ澄ませる時間として、どれも楽しめる絵が多かったです。

中には、ただ美しいだけでなく、ウィットに飛んだ作品もありました。

小難しく眺めるというよりも、ふと休みたいと思った時間に、そっと近くに置いておきたいような絵が多いなぁと思いました。

きっと、エカテリーナ2世が自分自身が楽しめるようにという想いもあったのかなぁと感じます。(あとの時代に購入されたものもあるけれど)

ちょこちょこ美術館に行っているなかでは、どこか堅苦しくないような、見て楽しむという印象が強いコレクションでした。(そういうものを日本向けに特にセレクトしてくださったのであれば、さすが!と思います)

フランス・スネイデルス《鳥のコンサート》というのも面白かったです。

大きな絵で、まぁ実際にはありえないような野生の鳥類たちが一同に会し、フクロウを取り囲んでオーケストラのように鳴き声をあげていました。真ん中にはコウモリもいるんです。おとぎ話の一部のようです。

作品の一部が、ここで見られます。http://hermitage2017.jp/works

美術を鑑賞することで、ダンスの表現力や感性を磨くにも役立つと私は思っています。多くのオールドマスターというのは、たいてい貴族や宮廷に雇われた画家もおり、その雇い主が宮廷舞踊をたしなんでいたわけなので、彼らの文化や嗜好が感じられます。また、それぞれの文化圏や時代によって、「美しさとはいったいなにか?」というのも変遷しているので、その大きな流れを肌で体感することができます。

西洋だけでも、時代をおうごとに、初期ルネサンス、バロック、ロココ、印象派、キュビズム、などでは表現の仕方も違います。それらを自分の心で感じることで、自分自身の表現の引き出しが広がっていくのだと私は思います。往年のバレリーナたちも、いろいろな芸術を観て学ぶことの大切さを言っています。

こちらの大エルミタージュ美術館展は回期が6月18日までですが、いろんなアート鑑賞からもバレエに役立てていきたいですね。私も観たものは忘れないように書き留めていきます。

マリー=アントワネット展を見たときの感想