ウィーン国立バレエ マニュエル・ルグリ版全幕「海賊」を観てきました!
ウィーン国立バレエを観るのは初めてでしたが、マニュエル・ルグリが芸術監督に就任して初めて全幕物の新版を創ったということで気になっていました。
元パリ・オペラ座のエトワールで、超超大スターの方ですが、バレエ団の芸術監督という仕事においても高い評価を得られていて、振付指導はさることながら、人員のマネジメント、上演作品の決定なども果敢な挑戦を続けてバレエ団の格を上げた大黒柱として務めていらっしゃいます。その中での新版創作というのは、素晴らしい成果。バレエ団内外から熱い信頼を集めているはずでしょうが、任期10年の節目となる2020年で退任するそうです。ルグリが日本に連れてくるウィーン国立バレエとしては最後のツアー公演なんだそう。
10年で辞めるというのは、このバレエ団の過去からするとかなり長いようです。
バレエ団の経営は個々によって文化も構造も興行形態もバラバラですから、自分が育った劇場以外の場所で、若いダンサー100名近くを背負うというのは相当な責任を果たしたのだろうと察します。
海賊は、今日のソワレ公演(夜)の主役にキミン・キムが客演しており、観客もかなり湧いていました!韓国出身で現マリインスキー・バレエ団のプリンシパルで、長身で存在感が大きく、噂通りにジャンプが高い!空中に止まる時間がとても長い!!!
有名なメドゥーラとのパドドゥのコーダでは、滞空時間に客席がどよめいていました。こんなに伸びを感じるジャンプを見たのは、とても久しぶりな気がします。
回転も安定していて、ゆっくり回るときでさえ伸びやかでぶれず(勢い任せよりある意味軸が求められる)感服しました。
海賊の首領という役柄にぴったりで、彼が舞台に現れると、場が締まります。ルグリが注目しているというのも納得でした。
メドゥーラもギュリナーラもオダリスクも、ポアントワークが滑らかでとても美しかったです。
そして女性に限らず、男性もふくめて、カンパニー皆さんに共通していると思ったのが、ポールドブラ(腕だけでなく上体ふくめての意味)がとても柔らかいんです。
押さえる形はキープしながらも、足の細かなステップに対してポールドブラがスムースで、淀みなく水のように流れていく。見ていてとても心地よいのです。
ウィーン国立バレエの団員さんは、多国籍なカンパニー。つまり学んできた流派にもバラつきがあり、厳格なロシア系(ワガノワ・バレエ・アカデミー卒)という方もいれば、ヨーロッパ各国や日本からも入団している皆さんがいるので、踊りをまとめていくには流派の差というのは、慎重に扱う必要があります。それでも、ルグリは違いがあることを否定せず、「豊かさ」であると言っています。(プログラムのインタビューより)
国籍や国境を越えて芸術をみんなで作り上げていく。
その上では意思決定できるリーダーが必要。芸術監督として、ひとつの形にまとめ上げるために、個々の良さを生かそうとしている点が舞台から伝わってきました。
舞台上では、流派がバラバラのようには見えないのです。
きっと、パリ・オペラ座エトワールらしい、エスプリをきかせながら、しなやかさと品格を、魔法のスパイスかのように振りかけているんだろうな…♪
振付は原振付を残しながらも新しく作り変えたパートが多く、音楽もアダンを中心に再構成したそうです。有名なパートはプティパ版をそのまま残し、そのバランスがちょうど良いと思います。
ルグリの振付はお洒落で超絶技巧も交えながら、音楽との調和が素晴らしいです。音楽にも個性があって、一曲の中でも盛り上がりやリズムに変化があるもの。それらを一つ一つ汲み取って丁寧に、無理のない自然なステップにつながるように入念に組み立てられていることを感じました。
特に印象に残ったのは、3幕のはじめに入れられたオダリスク(3人の奴隷の女性の踊り)。3人のソロを個性豊かに表現しつつ、コーダではシンプルなパを音楽の波にのせて、絶妙なマッチングを奏でていました。
他にも新作を創ってほしいなぁ…と思ってしまいました。
プログラムには、創作までの過程や日々の運営のこと、ルドルフ・ヌレエフとの縁のことなど、たくさんのインタビューがあり、私は励みを多々感じたコンテンツでした。ルグリの考え、思い、仕事への姿勢、周りのメンバーとの信頼関係、そういったものをきちんと整理して言語化でき、プレゼンテーションできる、そんな人柄が伝わってきてさらに尊敬してしまいました。なぜ新版をつくることになったのか(作りたいという思いははじめ無かったそう)。自分が踊ったことのない作品だったこと。そういったことに対してどんな風に感じたのか、どんな思いで向き合ってきたのか、というあたりが共感しました。
バレエってなんで飽きないんでしょうね。
とても良いインスピレーションに満ちた鑑賞となりました!
ウィーン国立バレエ海賊マニュエル・ルグリ版!ソワレに間に合った!✨キミンキムは本当に空を飛んでいるようだった…✨✨みなさんポールドブラが柔らかい。多国籍カンパニーでも柔らかさとつま先の伸びやかさが特徴的に感じる。ルグリ監督は数秒のレヴェランスだけでも麗しすぎて幸せだった💕 pic.twitter.com/A2eoZRdQPZ
— Ballet Yoga 🎀 ERI 三科絵理 (@mishina_eri) 2018年5月12日
多国籍ダンサーたちが持つ流派がバラバラだとしても、各流派を否定するのではなくて、「豊かさである」と言うマニュエル・ルグリ先生はやっぱりカッコいい。
— Ballet Yoga 🎀 ERI 三科絵理 (@mishina_eri) 2018年5月12日
振付と音楽の調和が心地よかった。ステップ的に無理がない流れでありつつも、メリハリはきちんとあって、ともすると拾いきれなくなりがちな、さりげないメロディ・リズムの個性もきちんと汲み取っている感覚。
— Ballet Yoga 🎀 ERI 三科絵理 (@mishina_eri) 2018年5月12日