バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ

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オペラの枠を超える驚き!バリー・コスキー版「カルメン」に心打ち抜かれる。英国ロイヤルオペラハウス


http://www.roh.org.uk/news/your-reaction-what-did-you-think-of-carmen-live-in-cinemas

英国ロイヤルオペラハウスの、バリー・コスキーによる新演出版「カルメン」をシネマで観てきました!!

カルメンは知っている物語。でも、今までに観たオペラともバレエともまったく別物!!といっていいくらい、バリー・コスキーの演出は、オペラの枠をはるかに超えて、ダンスなの?演劇なの?ミュージカルなの?いややっぱりオペラなの?と言いたくなる新しいカルメン。ネタバレ要素ばかりなのでご容赦を。

観た直後に思わずツイートしたのが、

「うーん、観て!!!」としか言えなくなるくらい(笑)第一声がこんな風になってしまう作品って、なかなか無いんですが、私にはとてもツボでしたよ〜〜!

びっくりしたこと

  • 舞台美術がモノトーン(すべてが階段ではじまり、階段で終わっていく… 不足でも過多でもない無駄を削ぎ落とした世界)

  • よくあるスパニッシュな民族風なスタイルはほぼなく、1930年代のパリ、ベルリンなどのテイストを元に衣装を仕立てている

  • 衣装も奇抜(カルメンはピンク色の闘牛士のような格好→ゴリラ→白シャツネクタイ黒パンツ→黒ドレス、などと赤い民族風な衣装は無し。ゴリラにはどんな意味があるのか、観客にも謎が広がる…)

  • 音楽を改訂しビゼー作曲当初に近い形に構成、物語の展開にはフランス語のナレーションが入る(メリメの原作からの引用フレーズも織り交ぜる)

など、他にも通常のオペラとの差異はあると思いますが、これだけ並べても、かなり違います。

古典的な伝統とは大きくかけ離れているので、観客はまずびっくりし、好む人もいれば酷評する人も…(現地のツイートに多いような。)

オペラハウスも賛否両論の意見をまとめ記事に

オペラハウスでも観客の賛否両論を受け止めながら、ネット上にまとめ記事をアップ。批評のカルチャーを前面に押し出していて、それもさすがイギリス。痛烈に否定するコメントもどうどうと載せてあります。

Your Reaction: What did you think of Bizet’s Carmen live in cinemas? — News — Royal Opera House

それでもわたしが好きだと思った理由

それでも、私は、すごく好き。感じたことをメモしておきます。あくまで私はオペラは素人で、ダンサーとしての視点です。

ナレーションが斬新で、演出に活きる

このオペラに画期的なのは、ナレーションを入れていること。保守的な客層には嫌がる人も多いようですが、このロイヤルオペラでの版にはナレーションがないといけません。なぜなら、舞台装置の大きな階段がステージ全体を占めていて、もはや「階段しかない」と言わざるを得ません。階段しかないのに、場面は展開していきます。そのために、ナレーションが生きてくるのです。ナレーションがあることで、メリメの原作小説「カルメン」からの引用も挿入できていました。そういった伏線を張るという自由度が広がっていたので、面白いなぁと思いました。演劇っぽいですね。また、しかも照明も衣装もモノトーンが基調となり、場面展開を伝える情報量が少ないため、ほどよくナレーションがあることで言葉の力が生きてきます。

美女の三十の条件

スペイン人に言わせると、一人の女が美女の名に値するには、三十の条件をすべて備えなければならないそうだ。言葉をかえて言うなら、これは彼女の肉体の三つの部分とそれぞれにあてはまる十個の形容詞を用いて品評できるほどでなければならないという意味だ。たとえば、彼女は三つの黒いものを持たなければいけない。それは目と睫(まつげ)と眉だ。三つのきゃしゃなもの、それは指と唇と髪の毛だ、等々々といった具合だ。
カルメン (新潮文庫 (メ-1-1)) p.34 舞台で引用された箇所 )

モノトーンがミニマリズム

舞台はなにかと色を多彩にして華やかにさせてしまいやすいけれど、じゃあ華やかに見える以外に、なにか意味が感じられたか?というと、うわべだけの見た目しか観ていなかったことを、モノトーンの舞台を見ながら振り返りました。

果たして、今までの色の意味はなんだったのか?と考えさせられます。

例えば、黒の中に一人白がいたり、舞台装飾が階段以外無い中で、くちなしの赤い花びらがきわだちます。(花びらのモチーフの使い方も心理描写に絶妙に絡ませていて好き)

このカルメンは照明が控えめで、一人一人の顔もはっきりとはわからないくらい。影が多く、衣装もブラックを基調としているので光と影が浮き上がる。暗いからもっと明るくしてほしいという意見もあるのかもしれませんが、影があるからこそ、カルメンとホセに向けられたスポットが活きると感じました。そして、合唱団演じる民衆たちの騒がしさ(視覚的にも振付がザワザワ感を醸し出す)の割に、モノトーンにまとめているから、主役を潰さずに、対比もきちんと示すことができているように思って、こういう見せ方はなかなかチャレンジングだけれど、飽きさせないようにうまく出来ていて感動しました。

合唱団のダンスが視覚的に美しい

上にも書きましたが、合唱団の歌手のみなさんはダンスや振りもこなしています。コールドバレエ並みにみなさんの息を合わせて体の動きも合わせていました。ダンサーだから感じるのは、全員が同時ではなく、ちょうどよくばらけながらタイミングをずらしつつ全体としてはきちんと意思をもって振りをつけられるってすごいことです。全員がまったく同じ動きをするほうがやりやすいからです。周りの空気を読んで家族同然に仲よさそうな合唱団だから出来るのだろうなぁと。

(すっきりモノトーンな空間に、主役や準主役の人たちと、民衆を演じる人々の位置関係によって、社会の姿が浮かび上がる感じは、ドイツの振付家ピナ・バウシュの世界観をも想起する瞬間がありました。)

カルメンの女性像に共感しやすかった

個人的に、カルメンという一人の女性像の人生が時代のラグを経てもすっと自然に共感しやすかったです。これは、頭で考えて理屈を並べるのではなく、心で感じたことなので、私の感性との相性なのですが。オペラについては素人ですし、歌や舞台構成についてのことは詳しくわからないですが、共感しやすかったというのは事実でした。カルメン役のアンナ・ゴリャチョーバさんは長身スレンダーで、バリー・コスキー風の解釈するカルメンにぴったりな美人で賢く仕事もできる女を見事に演じていました。スーツを着た仕事仲間の男たちに「カルメンがいなきゃ務まらない」とせがまれるあたり、なんとなく「オーシャンズ11」のような、危険な美しさを感じましたよ。

観客に、考える余白を与えている

このカルメンは観客に「あなたはどう思う?」と、聞き直すくらいの挑戦的な鋭さがあります。

ビゼーが作曲したと考えられる、これまでのカルメンでは削除されていた、聞いたことのない曲も含まれていますし、モノトーンな情景を見ながら「ここは酒場」「ここは闘牛場」などと想像させられてしまう感じ。

観客としては、こちらが観ているはずなのに、舞台側に試されているような気さえしてきます。

まあ、本来芸術というのは観る人の目も試されているようなものですが…

ふつうの古典的な舞台は逆で、言うならば、見る対象が舞台にたくさん用意されていて、あれも、これも、順番に観て追いかけていく感じで、まあそれでも傍観している気持ちの方が強い。

でも今回の版は「それで、あなたは?どう解釈する??」と問題提起されているような気がしてきます…

たとえば、多くの人が気になる「カルメンがゴリラの格好で出て来る理由」とは。(ネタバレになっちゃうけど…)原作にヒントがあるのかどうか?読み直してもあまり見つかりませんでしたが。

ただ、ゴリラの黒い色、そして毛の質感、力強さ(野生味のある)を思うと、劇中のカルメンを見ていてその片鱗を備えている気もしてきたり…。どんな意図があったのかなぁ。こうやって気にしていることがそもそも狙いなのかもな、とも思ったり。

いろんな意味で、話題作そのものなのです。

「こんなに前衛的にしたらオペラじゃない」って言う人もいるかもしれません。でも素人のわたしからすると、古典から受け継がれているアリアや合唱はやっぱりオペラ。ミュージカルではなくて、古典へのリスペクトもふくめて「それでもやはりオペラだ」と思いました。

それにしたって、演出を変えて、音楽も書き直し、衣装も美術も変えて、新しく描き出せるというのはたくさんの労力とリソースが必要。精力的なロイヤルオペラハウスの試みはこれからも見逃せません。

カルメン (新潮文庫 (メ-1-1))

カルメン (新潮文庫 (メ-1-1))