踊りを見るときと、自分が踊るときというのは、気持ちも態度も変わるものです。
体の動線が、見る人の心にイメージを描きます。
受け身として見る側のときは、じっくりと落ち着けて踊り手の体の動線をなぞるように見つめます。
全身を引いて見ることもあれば、手脚の角度、手先、つま先、顔の表情など細かいところも見るでしょう。
いろんな瞬間をつなげて、点と点をつなげていき、印象的な動線を目でたどります。
あなたが踊るときには、体の中から外へイメージを体の動きに表していきます。
バレエは楕円形や直線・曲線・放物線・水平線・波・回転・跳躍 などいろいろな動線を描きます。
まだ踊りに慣れていないうちは、振付を覚えたりこなすことで一杯になりがちですが、踊りを見てうっとりする体験もしていきましょう。
「すぐに自分が出来るかどうか?」は置いておいて、見る人の気持ちになりきってみるのです。
そして、踊る練習をするときには、「どんな瞬間があると、うっとりする気持ちになりやすいかな?」と考えてみるのです。
いやいや、それは上手な人が考えることでしょう?と思いましたか?
初級レベルだとしても、できることがあります。
たとえば、基本の形のポーズに重きを置いてみるのです。
アンオーで止まるとか、アラベスクの形になるとか、バレエの名前がついているポーズの形があります。
その形の時間をしっかり見る人がキャッチできるくらいに止めるのです。
カクカク踊りなさい、ということではありません。
流れるようにしてポーズも流れてしまうと、人間は動線を感じることができないのです。
メリハリが大切です。
バレエのポーズは美しく感じるような形になっています。
絶えず止まらないで動き続けていると、いくら「アンオーで止まったつもり」だとしても、印象に残りにくくなります。
そのあとも次のポーズにいくまで余韻を残すのです。
急に雑にしたり脱力すると、次へのつながりが途切れてしまい、「動線」ではなくなってしまいます。
動線は筆の運びのように、目で追いかけられるようにします。
音楽のリズムにのって、くるくる、くにゅっ、ひらっ、ふわっ、いろんな形の線を滑らせていきます。
初めのうちは、ふわっ、としたら、その後どうすればいいか静止してしまうかもしれません。
「無」になってしまい、バレエの時間の流れが「素」の瞬間になってしまいます。
バレエは静止せずに次へのつなぎがあります。
意識のない「無」の瞬間をなくしていき、どのように動線を描くのかイメージできるようになっていくと、表現力がアップします。
習いたてのうちは動線を考える余裕があまりないかもしれません。
でも、あなたが「バレエって美しいなぁ」と思う理由のひとつに体の動線があったはずです。
脚でもいいですし、手でもいいですし、体の方向(骨盤やおへその方向)などで動線というものを自分の体に感じてみましょう。
日常生活で体の動線を考えることは少ない人が大半なので、それらを考えるだけでクリエイティブな時間です。
空気に見えない「線」を想像して動くと、見る人には「動線」として存在して見えるようになっていきます。
日常生活とかけ離れた動線だからこそ、シンプルでも美しく感じられます。
ほんの少し手を差し伸べるだけ…であったり、やや首筋を傾けるだけ…であっても、普段の動作ではそこまでしないものですので、日常を超えたアートに見えていくのです。
そう考えてみると、バレエの動きも面白く感じませんか?
完成度やレベルにとらわれることなく、バレエという動きを「面白いなぁ」「体でこんな動きができるんだ」という発見をすることで、あなたの体の動線にもヒントになっていきます。
かけがえのない体を生かして、体も表現したいようにコントロールすることで動線で描くアートを楽しみましょう。