バレエ作品「さくら」新作を振り付けるまでの振付ストーリーを紹介していきます。
(4)松尾芭蕉の俳句から日本人の美的感性に立ち返った
(4)松尾芭蕉の俳句から日本人の美的感性に立ち返った
桜は日本人が昔から好きな花です。
百人一首の春の句もいくつかありますが、たとえばこちらさ有名ですね。
世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 在原業平
「世の中にまったく桜がなかったならば、春の人の心はどんなにのどかであることでしょうね。」
桜が咲くと花見がしたくてそわそわし始める…そんな世の中が西暦800年ごろでも同じであったのかと思うと、日本人としての桜に対する美的感性は古来からなのだと思わされます。
梅も同様に日本人に愛され続けている花で、春の歌によく詠まれていますが、桜という具体的な名前を句に入れているものは意外と限られていることもわかりました。
さらにいろんな和歌などからインスピレーションになるものを探したところ、松尾芭蕉の俳句がありました。
命二つの中にいきたる桜かな 松尾芭蕉
これは桜の樹の下で約二十年ぶりに旧友の服部土芳と再会したときの心を詠んだ俳句だと言われます。
旧友との再会を「命ふたつ」と言い表すところがさすがです。
人との再会が桜の季節というのが、一層ドラマチックに感じさせます。
私たちにとっても、現代で新生活が始まる象徴の季節であるだけに、いつの世にも通じる再会の喜び、人とのご縁の喜びを桜の美しさに込めているというのがなんとも絶妙な表現です。
私はこの俳句に出会い、さらに春の喜びだけでなく季節や大切な人との「出会い直す」ということを考えました。
そこで、冒頭の画像に込めたこちらの言葉を浮かべました。
さくら花(ばな) 命めぐりて 君と舞う 絵理
花びらが舞い散ることと、バレエで舞い踊ることをかけて。
これは桜の開花とともに、桜という一本の樹が私に与えてくれた生命の美しさと、私の人生が一年めぐってまた大切な人たちとの再会がうれしいことの思いを込めました。
それが、こちらのバレエ作品「さくら」に注いだ私のインスピレーションです。
日本人としての私の視点を、意識的にバレエ創作に投影したのはこれが初めてです。
いつか日本文化を織り交ぜたいと思っていましたが、意外にも身近なところに題材が眠っていました。
みなさんにとっても、バレエは西洋文化の世界のイメージが強いと思いますので、実際に作品に触れるとしてもそのようなことが多いのではないでしょうか。
あなたにとって新しい季節を感じたり、新しい日々を待ち望む自然体の気持ちを、バレエに込めて踊っていただければと願っています。
つづく
6/12(日)「さくら」バレエ作品を踊るレッスン ♪リスト「愛の夢」初級から参加OK
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