バレエの「火の鳥」と全く同じではありませんが、バレエ・リュスが《火の鳥》を創作していたころに参考になっていたのではないかと考えられている『イワン王子と火の鳥と灰色狼の話』という民話があります。
日本でも子ども向け外国民話の中に出版されており、私も図書館で借りてきました。
作者はアレクサンドル・アファナーシエフで、ロシアでいう「ドイツのグリム童話編纂」のような仕事をした人です。昔ながらの語り口や、くりかえしの多い箇所、はらはらしたりおかしなところもできるだけユーモラスに残したからこそ私たちも今本で読めているのでしょう。
※バレエの「火の鳥」についてはこちら
「火の鳥」バレエリュス代表作 ストラヴィンスキーの音楽、ロシア民話、シャガールの美術まで楽しめる作品の特徴 - バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ
実際に「イワン王子と火の鳥と灰色オオカミの話」を読んでみた感想は、日本によくある民話の展開と少し違う印象のドラマチックな展開でした。(笑)
語り口は子供でもわかるような感じで、繰り返しも多いので「また…!イワンったら!」とツッコミをいれたくなるのも民話ならではでしょう。
長めのお話なのですが、なかなか触れる機会が少ないと思いますので、ざっくりあらすじを載せておきます。
かいつまんでおりますので、繰り返しの語り口はありませんが、筋書きだけでも理解したい方へ。
王が大切にしている「金のリンゴ」を食べにくる「火の鳥」を捕まえよと王が三人の息子に言う
王のほうびがほしいので兄弟で競争になる
末っ子のイワンが手に入れるので兄たちはうらめしい
イワン自身は賢いわけではないがオオカミが助けるので困難を乗り越えて「めでたしめでたし」にたどり着くという構造
むかし、ある国にヴィスラフという王様がいて、息子が三人おり、イワンが末っ子でした。
お城の庭には珍しい木がたくさんあり、その中の「金の実がなるりんご」は特別でした。
そこへ火の鳥が金のリンゴの実をついばみに来るようになってしまいます。
王様は金のリンゴがなくなるのが嫌なので、三人の王子たちを呼んで、火の鳥をつかまえたら国の半分をほうびに与え、死後は全部与えると言いました。
まずは上の王子が見張りをしますが、眠り込んでしまい、火の鳥に気付きませんでした。
翌日、中の王子も眠り込んでしまいました。
三日目はイワンが待ってみると、三時間くらいして急にあたりが明るくなり、火の鳥がやってきました。つかまえようとすると逃げてしまい、金の尾羽一枚だけ残りました。
尾羽はあたりを明るく照らすろうそくのようで、王様は喜び、イワン王子は宝物にしました。それから火の鳥はやってきません。
しばらくたち、王様はもう一度火の鳥を生きたまま連れて帰ってほしいと息子たちに言いました。
二人の兄はイワンのことがうらやましいので、さっさと置いて出かけます。
イワンは王様が心配して引き留めようとしましたが、イワンはどうしても行きたくて無理でした。
イワンは馬に乗って遠くに出かけていくと、この先馬は死ぬと書いた道を行ってしまいます。(分かれ道で、反対は自分が死ぬが馬は生きると書いてありました)
すると大きな灰色のオオカミが馬を死なせて食べて去ってしまいます。
イワン王子が悲しんでいると、オオカミが謝ってきました。
かわりに火の鳥の居場所を教えてくれました。
金のかごに入っているが、火の鳥だけを取り出して、かごにはさわってはいけないと言われました。
イワン王子は火の鳥を取り出しましたが、金のかごもほしくなってしまいます。手を伸ばすと、糸が張られていて番兵に見つかってしまい、ここの国の王のドルマート王に連れ出されてしまいます。
なぜこんなことになったのか問いただされ、イワン王子は素直に言いました。
すると、ドルマート王は盗まないで素直に言えばよかったのだと言いました。どろぼうの罪をゆるすために、ここからずっと遠い三十番目の国アフロン王から金のたてがみの馬を手に入れてきなさいと言いつけました。
イワン王子は約束して、灰色オオカミのところに相談しにいきました。オオカミの言ったことを守らなかったことも誤りました。
オオカミはアフロン王の金のたてがみの馬がいるところまで連れていってくれました。
でも、またここで金の手綱に触ってはいけないと言われるのですが、イワン王子は触ってしまいました。
またアフロン王のところにつかまってしまいました。
ドルマート王と同じように、今度は遠くの国の美しいエレーナ姫を連れてくるように言われました。
オオカミにまた話してエレーナ姫のところに連れていってもらいました。
イワンは待っていなさいと言われたところで素直に待っていると、オオカミがエレーナ姫を連れて、イワンも乗せて、アフロン王のところへ連れていきました。
イワン王子はエレーナ姫のことが好きになってしまい、引き渡す前に大泣きしてしまいます。
心から好きになったのに、どうして姫を引き渡さないといけないのか… 渡さないとイワン王子はどろぼうだと言いふらされてしまう…と泣いているのです。
オオカミはイワン王子のために、助けを出してくれました。オオカミがエレーナ姫に化けるので、金のたてがみの馬をもらったら姫と遠くに逃げなさいと。そしてオオカミの名前を呼べば戻ってくると言います。
計画通りに進み、オオカミが戻ってきました。
ドルマート王のところまで戻ってきたとき、イワン王子はオオカミににせの金のたてがみの馬に姿をなりすましてほしいと頼みます。
うまくいって、火の鳥を手に入れて、イワン王子がオオカミに自分の馬を襲われたところに戻ってきました。私の仕事は終わったというオオカミは、このまま金のたてがみの馬に乗っていくようにイワン王子に言い、エレーナ姫ともっと遠くへ旅を続けました。
ほしいものを手に入れたイワン王子でしたが、二人の兄に見つかり、寝ていたイワンは殺されてしまいます。
エレーナ姫は兄たちに脅されてしまい、父王のところへ行くのでイワンではなく兄たちが手に入れたのだと嘘をつくことに黙ってついてきなさいと説き伏せます。
三十日経ったあとイワン王子のなきがらをオオカミが見つけました。カラスに死の水と命の水をもってくるように言います。イワン王子に命の水をふりかけて、生き返ります!
今日は二番目の兄とエレーナ姫が結婚をするところで、あわてて引き留めにいきました。今までのことをすべて話し、二人の兄は牢屋に入れられてしまいます。
無事にイワン王子とエレーナ姫は結婚することができました。
このような感じです。繰り返しの展開、みなさんはイワンやオオカミにどう思いましたか?
妖精の手助けのようなオオカミの言うことを聞かないためにイワンは罪をおかしてしまうが、その後の行動でゆるしてもらいつつも、オオカミが助けてくれているから成り立っている、というのが気にかかってくるお話でもあります。
実際に「イワン王子と火の鳥と灰色狼の話」を読んでみると、バレエ化したい台本とは違ったというのも納得できますし、それでも火の鳥という特別な存在感は昔から伝承されていたのだということもよくわかりました。
参考
文字が大きくひらがなが多くて、子ども向けです。カラーのイラストはロシアらしくてかわいい。
全体像をさっと読みたい大人向け。昔話が13話入ってます。白黒です。