人物相関図
登場人物
ニキヤ 寺院に仕えている舞姫
ソロル 戦士
大僧正ハイ・ブラーミン
藩主ラジャ ドゥグマンタ
ガムザッティ(ラジャの娘)
苦行僧マグダヴェヤ
黄金の像 ブロンズ・アイドル
あらすじ
舞台は古代インドの寺院。寺院の舞姫バヤデールは、戦士のソロルと密かに恋人関係にあった。寺院の聖職者大僧正ハイ・ブラーミンは、バヤデールに密かに片想いをしており、何としてでも手に入れたいと嫉妬で煮えたぎる感情を募らせていた。
第1幕。藩主の宮殿。藩主ラジャには娘のガムザッティがおり、ソロルと結婚をさせたいと考えておりガムザッティも強く願っていた。ソロルは藩主の命令に逆らうことができないため、ニキヤとの関係がありつつも、美しいガムザッティとの婚約を受け入れてしまう。もちろんニキヤは知るよりもない。
大僧正はソロルに嫉妬しているため、ニキヤを諦めさせるために、藩主ラジャへ娘の婚約者ソロルが実はニキヤと恋仲にあったことを密告する。大僧正が狙った通り藩主ラジャは怒り、ガムザッティはニキヤに嫉妬する。ひっそりとニキヤに会い二人の関係を探ろうとすると、ニキヤが強くソロルを愛していることが分かり、身を引こうとしないため、ガムザッティを暗殺しようと決心する。
第二幕。ガムザッティとソロルの豪華絢爛な結婚式が開かれる。祝いの踊りが繰り広げられ、ガムザッティとソロルのグラン・パドドゥも繰り広げられる。そこへ、舞姫として招かれたソロルの本当の恋人ニキヤが踊りを捧げに来る。ソロルは命令に逆らえないため、ニキヤは悲しみにくれながら祝いの舞いを踊る。そこへ、ソロルからの贈り物だと騙されて花カゴをニキヤは受け取る。ニキヤは嬉しくなり、ソロルは私への気持ちを失っていなかったのだと思っていると、実は暗殺のための毒蛇が仕込まれた花カゴだった。毒蛇に噛まれたニキヤは倒れる。そこに大僧正がやってきて、私の愛に応じるならば解毒剤を飲ませると言う。ニキヤは大僧正を恨みながら毒に犯されて死んでしまった。
第三幕。ソロルはニキヤが殺されてしまったことに悲しみながら、アヘンを吸って夢を見る。そこは幻影の王国で、たくさんの美しいバヤデールたちの群舞と、幻のニキヤと再会する。ニキヤへの愛を確かめるように踊りが繰り広げられる。しかし、ソロルが夢から覚めると現実は寺院が崩れ落ちそうな危機になっている。権力と傲慢な偽りに満ちた世界に神が怒り、世界をもろともに破壊してしまい、みなが瓦礫の下にうもれ死んでしまう悲劇で物語が終わる。
プティパが初演した異国情緒のバレエ
ラ・バヤデールは1877年にロシア帝室バレエの主席バレエマスター、マリウス・プティパが初演(マリインスキーバレエ)したグランド・バレエです。ドラマティックなインドの舞姫の物語に、踊りの見せ場、主役のパドドゥ、コールドバレエの美しさが相まって、現在も世界中で上演され続けているバレエ作品です。
当時のバレエ作品にしては、あらすじの悲劇が衝撃的で、観客からは賛否あったようで、後世により評価が強く高まりました。
台本はマリウス・プティパとクデコフが作り、5世紀に書かれたというインドの戯曲を元に構成されています。
音楽はレオン・ミンクスが作曲し、ドン・キホーテと同様に踊りやすい音楽が多く、人気を押し上げる大事な要素になっています。
愛と死と精霊の構図
ニキヤとソロルの愛が破られ、恋人が死んでしまった後に精霊と再会する構図は、ジゼルに似ています。現実の世界ではないため、一層幻想的なバレエの情景が引き立つ場面構成にもなっています。その前の藩主とその娘ガムザッティは高貴な身分で宮殿に住んでおり、対比で寺院に仕える舞姫ニキヤ、また周りに苦行僧たちが登場することも社会の様子を表しています。
聖職者の禁じられた恋愛
大僧正ハイ・ブラーミンは、聖職者で勤勉・禁欲的な立場に見えますが、舞姫ニキヤへの片想いで狂おしいほどに嫉妬しています。これは、他のバレエではエスメラルダ(ノートル=ダム・ド・パリ)にも似ています。踊り子のエスメラルダに恋をして、教会の副司教のクロード・フロロが嫉妬でおかしくなっていく展開と重なるところがあります。エスメラルダも、ニキヤも、聖職者の欺瞞の愛には一切応じないで命を落としてしまった悲劇のヒロインです。
ニキヤを殺したガムザッティがヒロイン並みに映える
このバレエの物語をよく知らないままで「ガムザッティのヴァリエーション」というソロを見ることがあると、てっきりガムザッティが真の主役でヒロインなのだと思っていたということもあるかもしれません。なぜなら、第二幕の豪華な結婚式でテクニシャンな踊りでパドドゥを披露し、いかにもバレエの名シーンとして主役を勝ち取るからです。でも実はその直後に毒蛇に噛まれて悲しみながら死んでいくニキヤが恋物語では本当のヒロインです。
ガムザッティの結婚式の場面の踊りはコンクールや発表会でも人気が高く、別の「海賊」のバレエでも同じソロを踊られることがあるくらい人気の作品です。ジャンプ、回転、華やかなオーラを表現するのにぴったりの作品です。
一方で、ニキヤの花カゴの踊りは叙情的で感情を表現することがより求められ、演劇的な要素もあります。テクニックの数は少ないものの、悲しみを表現し切りながら踊り切るのはやはり高い技術力が必要です。大人っぽい表現力と、花カゴをもらう前、もらったあとの感情の変化、毒蛇に噛まれて死んでいくまでの表現力もいります。
幻影の王国のコールドバレエ
第三幕の幻影の王国は壮大な精霊のバヤデールたちの群舞から始まります。穏やかでひっそりとしたメロディーに、ゆったりとしたアラベスクのポーズで一人ずつコールドバレエが進み出てくる情景は、他のバレエには見られないほどの壮観さがあります。
白鳥の湖、ジゼルなどでもバレエ・ブランの一糸乱れぬ情景がありますが、ラ・バヤデールの音楽と一体化した黄金比のようなバレエシーンは、ぜひ動画でもいいのでご覧になってみてください。
また、その後にソリストたちのソロヴァリエーションがあり、踊りの見せ場としても楽しめるようになっています。
主役のニキヤとソロルのヴェールの踊りは、二人の生死を分つ距離の大きさ、そして消えることのない愛の深さを表すようで、大人の感受性にも十分に味わい深く訴えかけてくる物語です。
ラ・バヤデールの魅力を知っていただくことで、さらにバレエ鑑賞のきっかけにしていただければ幸いです。
最後にバヤデールといえば、ショーメ展で以前「バヤデール・ネックレス」を見ました。
小さな真珠のきめ細やかさと、オリエンタルなスタイルな印象的でした!
【ショーメ展/作品解説⑧】
— 三菱一号館美術館 (@ichigokan_PR) 2018年9月7日
この紐のように見える部分、すべて真珠で出来ています・・・!本作はインドにインスピレーションを受けて制作されたソートワール(ロングネックレス)です。たっぷりとしたケシ真珠に、青く澄んだサファイアが組み合わされ、優雅で贅沢な印象を与えています。 pic.twitter.com/DSPnqLIaZt