ずっと気になっていた、日本初公開のドガ絵画作品〈リハーサル〉を見に行ってきました!ちょうど、この春にバレエグループレッスンのオリジナル作品で〈ドガ&月の光〉を創作していたところでの来日とあって、なんだか運命を感じてしまった展覧会でした。6月30日までと会期が短いので焦って行ってきました。
- バレル・コレクションとは
- 「本国以外には持ち出さないこと」
- ドガ〈リハーサル〉を見た感想
- 画商アレクサンダー・リード
- やさしい色づかいのコレクション
- 実業で多忙な海運王のストレスを癒した絵画たち
- 他に印象に残った作品
- スコットランドにも興味が湧いた
バレル・コレクションとは
バレル・コレクションとは、バレルという絵画コレクターの名前からとっています。スコットランドの港町グラスゴーのウィリアム・バレル、海運業で成功した実業家です。家業を兄弟で受け継ぎ、船舶の売買で成功して「海運王」と呼ばれたバレルは、美術品の収集家でもありました。
15歳で働き始め、若いうちからスコットランドや国内の美術品を購入していき、徐々にフランスなどの海外の作品も収集するようになっていったそうです。96歳で亡くなりましたが、ハットン城という終のすみかを購入してその城で亡くなったそうです。生涯で収集した作品の数は、9,000点以上。途方もない数です。自分の家に置くだけでなく、他の人にも楽しんでもらおうと、故郷グラスゴー市に数千点寄贈され、バレル・コレクション美術館が1983年に開館されました。
「本国以外には持ち出さないこと」
ゴッホ、ドガ、マネ、セザンヌ、ルノワール、クールベなどをはじめとして印象派の著名画家の作品が多数あります。でもなかなか海外で見られない。その理由は、バレルが寄贈するときの条件に「大気汚染の少ない郊外に作品を展示すること」と「本国から持ち出さないこと」を提示したからなんだそう。それを聞き、日本に来日して大丈夫なのかな…とそわそわしましたが、今2016年〜2020年まで改装工事中のため貴重な機会に73点を借りることができたのだそうです。学芸員さん方の底知れぬ努力が伝わってくるようです…!一観客として、ありがとうございます!!
ドガ〈リハーサル〉を見た感想
ザ・ミュージアム(今回の展覧会の開催館)の入り口に着き、早速拡大のパネルがありました。実物はもちろん撮影禁止ですので代わりに。
大きさはまあまあ大きく、存在感がありました。(58.4×83.8cm)少し前にきていたフィリップス・コレクションでの〈リハーサル室での踊りの稽古〉よりも一回り大きかったです。
ぱっと一目みて私が目がいったのは、向かって右側の椅子に座っているダンサー。トウシューズをはいて、足はアンドゥオールになったまま休憩し、上着かショールのようなものを羽織っている姿はバレエの稽古場そのものの姿。19世紀のオペラ座でも、今の日本バレエ界で見かけるような姿と同じようなバレリーナなのだなとなんだかうれしくなります。
その後ろでは踊っているダンサーと、右奥にキリッとしたいでたちの先生がいます。どうやらこの紳士がバレエ振付家として有名なジュール・ペローのようです。
バレリーナたちのチョーカーのようなリボンがとてもかわいく、ドガの描く踊り子だなあと思わされます。踊っているバレリーナはアラベスクのポーズと報道されていましたが、実物をみてひざ下の角度からアチチュードかなという気もしましたが(骨格の並びをみて)いずれにしろ後ろに上げているには変わりません。
ドガは描く対象を見てすぐにカンヴァスに描くのではなく、スケッチを何度もしたり、当時出始めていた写真術をいち早く活用していたそうです。そう思うと、この一枚の絵はある日の様子をそのまま描き出しているようにも見えますが、実際はあらゆる瞬間の美しい光景をドガなりに組み合わせて描いたのかなとも思わされました。
ドガは裕福な家の生まれだったので、パリ・オペラ座の年間会員シートを購入でき、毎日のようにリハーサルを見に行ける特権を使っていたのだそうです。バレエ界にとっても、貴重な歴史資料になりえる絵ですよね。
ドガの絵や彫刻をいろいろ見たことはありますが、バレエが大好きな自分としては、このリハーサルは緻密さがずば抜けていて、螺旋階段との構図や一人一人のダンサーの生き生きとした肉体美に完成度が高いなと感じられました。なんだか、ずっと見ていたくなる絵でした。
画商アレクサンダー・リード
バレルが海外の大家の作品を多数収集できた背景には、画商リードの存在が大きかったそう。ゴッホが描いたリードの肖像画もありました。ゴッホと弟テオと一緒に住んでいたこともあり、ドガや多数の画家たちのアトリエに立ち入りが許されていた貴重な画商だったそう。
やさしい色づかいのコレクション
今回の「印象派への旅」というネーミングの通り、全体的にやさしい色づかいが多いなというのが印象的でした。中には、ハーグ派というグレーが背景になる絵も美しいなと感じられたからだと思います。アンビエントで、自然で。一色だけ切り取ればとけこむようなやさしい色たちを、構図が引き立つように、あるいは差し色を効果的に使い、なんだか見ていて落ち着くのです。静物画でも、肖像画でも、風景画でもそのトーンが整えられているようでした。多数のコレクションの中から厳選されているのでしょう。
実業で多忙な海運王のストレスを癒した絵画たち
海運でのバレルの業績は凄まじいものであったのでしょう。今で誰にたとえていいのかわかりませんが、相当なカリスマ実業家であったことは間違いないのだと思います。でも仕事人間で終わらずに、美術品で収集していた絵の美しさは、仕事のストレスを和らげていたのだそうです。きっと美術品のある邸宅は、1日の疲労を忘れさせてくれる、夢のひとときだったのでしょうね。だからこそ、贅を尽くすような感じではなく、むしろ印象派のやさしい色づかいが多いほっとする絵が今回多いことにもなんだか納得しました。
他に印象に残った作品
ひとつは、マネの〈シャンパングラスのバラ〉です。小さめのカンヴァスで、ひっそりと置かれている花瓶に、すっきりとしたやさしい色のバラ。余計な筆が置かれていないような気がしてくるほど、どこか、すっきり感を味わいました。マネの晩年の作品だそうで、体力の弱ってしまったころに描いたのでしょうか、小さいながらもまるでそこにひっそりとテーブルにそっと置かれているかのよう。影のやわらかさも美しく、影が美しいと思えるのは珍しい気分でした。そしてシャンパングラスの水がまた清らか。どうしてじっと見たくなるのでしょう、とても不思議な引力でした。
あとは、シャルル=フランソワ・ドービニーの〈ガイヤール城〉です。絵画のほっとした情景もそうなのですが、ドービニーは水の画家と呼ばれ、小さなボートをアトリエに改装させて、水辺の上で絵を描いていたのだそうです。なんてロマンティックなエピソードなのだ!とわくわくしてしまいました。こちらの3-1に載っています。
スコットランドにも興味が湧いた
バレルの故郷であり海運王の拠点でもあったスコットランド、グラスゴーにも行ってみたいなあと思いました。もともとは工業の街として発展したようですが、今はアートや文化の街でもあると紹介されていました。バレル・コレクションが美しい海ぞいや港町を描いていたのでよりそう思わせたのかもしれません(すべてがスコットランドではないのですが)。
文化村のカフェでスコットランドプレートが特別メニューでありましたのでいただいてきましたよ!
気になる方はあと10日あまりですのでぜひ行ってみてください!
いま、Bunkamuraでドゥマゴパリ祭2019というのも開催されていて、雑貨などのワゴンショップや大道芸もやっていました。バレルも憧れたフランスのパリ… 文化史を知るほどまたロマンを感じてしまいます。
図録だけでも買えたらいいなという方は、こちらから通販できるようです。遠くて行けない・忙しいというときに通販できるって、ファンとしてうれしいですよね。私は行けなかった美術展の図録を中古で探すこともあるので…さすがです。
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/19_burrell/goods.html
私のオリジナルバレエ作品〈ドガ&月の光〉
この踊りをレッスンで練習できる日があります。動画のようなスカートもレッスンでみなさんにお試しいただけます!ぜひご参加お待ちしております。
2019年7月23日(火)12:00〜14:00
新宿マイスタジオ 4Bスタジオ・参加費3500円
お申し込みはこちらのフォームから