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「火の鳥」バレエリュス代表作 ストラヴィンスキーの音楽、ロシア民話、シャガールの美術まで楽しめる作品の特徴

バレエ・リュスの代表作「火の鳥」の作品について深掘りしてみましょう。

火の鳥は、メラメラと燃える炎のような強い印象の女性バレリーナが主役の作品です。バレエには鳥のバレリーナが他にもありますが、「白鳥の湖」の切ないキャラクターとは対照的で、ロシアの民話をバレエにした貴重な作品です。

(上はこちらのディスクの予告編ですが、「火の鳥」と「春の祭典」がまざった映像になっています。どちらもストラヴィンスキー作曲の音楽です。)

登場人物

  • 火の鳥

  • イワン王子(王女と恋に落ちる)

  • ツァレヴナ王女(乙女たちと一緒に、魔王に囚われている)

  • 魔王カスチェイ(悪役)

作品情報

  • 振付 ミハイル・フォーキン

  • 音楽 ストラヴィンスキー

  • 初演 1910年バレエ・リュス(パリ・オペラ座)

  • 構成 1幕2場

あらすじ

舞台は魔王カスチェイの城の周りの庭。火の鳥が金のりんごの木に寄って食べようとしていると、火の鳥に魅せられたイワン王子がつかまえようとする。火の鳥は「《魔法の羽根》を渡すので逃がして欲しい」といい、イワン王子は羽根の美しさを気に入ってわかったと解放する。

そこへ、美しい乙女たちが12人やってくる。その中のツァレヴナ王女とイワン王子は恋に落ちる。

でもツァレヴナ王女と乙女たちは、魔王カスチェイに囚われてしまっている。

イワン王子は助けたいと思う一方、魔王カスチェイはイワン王子を石に変えさせようと企む。魔法をかけようとした瞬間、イワン王子が火の鳥にもらった《魔法の羽根》のおかげで、火の鳥が助けにやってくる。

火の鳥は、魔王カスチェイを倒すには、魔王の魂が入っている石(卵)があり、それを割ってしまえば命が尽きるのだと教える。

イワン王子は魔王カスチェイの魂が入った石を叩き割り、ツァレヴナ王女と乙女たちは元に戻ることができた。

イワン王子とツァレヴナ王女は結婚して結ばれる。

火の鳥 (ストラヴィンスキー) - Wikipedia

ロシア民話をもとに異国情緒を表す

火の鳥はもともとロシアの民話で違う物語でも登場している伝統的なキャラクターらしいのですが、バレエ・リュスの作品での火の鳥は、バレエ用に物語を新たに作っています。

元になっている似たロシア民話があるということで、帝室劇場とバレエ・リュス マリウス・プティパからミハイル・フォーキンへを参考にポイントを紹介します。

「イワン皇子と火の鳥と灰色狼の話」

アファナーシエフの民話に「イワン皇子と火の鳥と灰色狼の話」があります。

金のりんごをついばみにくる火の鳥をイワン王子がおいかけてくる、という非常に似た設定のお話です。ただ、場面は父ヴィスラフ王の宮殿の庭になっており、魔王カスチェイはいません。火の鳥から《魔法の羽根》をもらうところも共通しているのですが、それをもとに助けてもらえたという話はなく、灰色の狼の力を借ります。イワン王子は火の鳥、エレーナ姫、金のたてがみの馬を手に入れるという話です。

「不死身のカシチェーイ」

カシチェーイという名前と、魂の入った卵を割って倒し、王女を手に入れる設定は、アファナーシエフの別の民話「不死身のカシチェーイ」があります。でも火の鳥は登場せず、王や勇者もあまりバレエの方とは関わりがありません。

ほかにも火の鳥が登場する民話があるようなのですが、バレエの制作にかかわっていたフォーキンたちは原作を示すことはなく、バレエ向けに作り上げたというのが実際のところだったのでしょう。

バレエでは火の鳥を「強く艶やかな女性」に演出

火の鳥というアイコンは民話ではめずらしくない存在でしたが、バレエでは特に「艶やかな女性」として演出したのが民話でのイメージとの違いなんだそうです。

民話ではどちらかというと「動物」としての火の鳥で、どちらかというと「災いをもたらすもの」であったようです。バレエでは白鳥の湖などに代表されるように女性の美しい鳥というイメージが好まれていた背景もあり、手の届かない美しい憧れのようなヒロイン的存在に形成されていったのかもしれません。強さと魅力という両方が共存するのがバレエの火の鳥の特徴です。

パリのバレエ・リュスで「ロシア民族文化を特徴にした作品を」というニーズがあった

パリではバレエが芸術よりも格下と思われていた20世紀初頭に、バレエ・リュスはロシアで成熟されたバレエの価値を広めようとバレエ作品を繰り広げていきます。

その中で、ロシア帝室バレエのマリウス・プティパが関わっていたような作品は「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「ライモンダ」などの物語設定は、ヨーロッパからの影響が強く、ロシア民族文化を素直に表しているとは言えない状況でした。また、帝室バレエ関係者の中ではプティパのバレエが古臭いともみられていることもありました(プティパはすでに最晩年でフォーキンは若手でした)。

パリで独自に上演ができて、ヨーロッパの人々に「ロシアのバレエなんだ」と印象づけるためには、ロシアらしい純粋な民族文化を表現したような作品が求められていました。

そこで、ディアギレフは当時の新進実力派作曲家であったストラヴィンスキーに音楽を書いてもらえるように依頼をし、ディアギレフと親しい芸術世界派の画家アレクサンドル・ベヌア、振付家ミハイル・フォーキン、画家ドミートリー・ステレツキー、ゴロヴィーン、作家アレクセイ・レーミゾフ などの様々な意見を交えながら火の鳥の創作が進められていったそうです。

フォーキンは、次のように書いている。「ディアギレフと最初に共に仕事をした時、パリに持って行くレパートリーについて話し合った際、私がペテルブルクで創ったバレエの中には、純粋に民族的なバレエ(purely national ballet)が欠如しているように感じられた。ロシアの生活を描いたり、ロシアの民話から着想を得たりしたバレエが無かったのである。…(中略)…そして偶然にも、「火の鳥」は舞踊化に最も適した素材を含む、最良の民話だった。だが、そのままバレエ化するのにふさわしい一つの完全な「火の鳥」のお話はなかった。」

帝室劇場とバレエ・リュス マリウス・プティパからミハイル・フォーキンへ p294

バレエ・リュスから現代まで「火の鳥」は新版が創作され続けている

https://www.nycballet.com/discover/ballet-repertory/firebird/

ストラヴィンスキーの「火の鳥」の音楽はオーケストラで単独演奏されるくらい有名でもあります。そこで、バレエ作品としても現代振付家がいまだに創作をし続けている名作となりました。

バランシンはバレエ・リュスを離れた後もストラヴィンスキーと親しくしたことで、ニューヨークシティバレエ版の火の鳥を1949年に発表しています。主演の火の鳥は、マリア・トールチーフが演じました。衣装デザインと美術にシャガールが使われていることも特徴です。

※マリア・トールチーフは前のブログで登場しています。

また、マリア・トールチーフというバレリーナは17歳ぐらいでバレエ・リュス・ド・モンテカルロに参加し、バランシンと結婚していたほどアイコン的な存在で(その後離婚)、ニューヨークシティバレエのプリマとして長年活躍しました。アイゼンハウアー大統領に1953年のウーマン・オブ・ザ・イヤーに選出されています。引退後はシカゴシティバレエ団を設立しています。

ディアギレフ時代以降のバレエ・リュス(モンテカルロ 1931〜1960年代) - バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ

最近のNYCBの映像です。

NYC Ballet's Teresa Reichlen on George Balanchine's FIREBIRD - YouTube

ほかに、ジョン・ノイマイヤー版、モーリス・ベジャール版、ウヴェ・ショルツ版など派生しています。私は一番最近では東京シティバレエ団による山本康介さん振付の「火の鳥」も鑑賞しました。

「火の鳥」は、ある種決まりきった西欧的ファンタジーのお話ともちょっと違ったタッチであり、短めの構成でも独特の異世界へ連れて行ってくれるような世界観で、何より火の鳥の女性像が魅力的です。

機会があればみなさんにもぜひみていただきたい作品です。

さて、ここまで「火の鳥」の作品解説はいかがでしたでしょうか?

作品ができるまでの背景や現代バレエへの発展を知ると、もっと興味が湧いてくるような世界ですよね。

バレエとしても、ストラヴィンスキーの音楽性でも、いろんな視点で「火の鳥」を楽しんでみてください。

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