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「ラ・シルフィード」ができるまで マリー・タリオーニ主演・ジゼルへの影響

ロマンティック・バレエの時代の最初の代表作が「ラ・シルフィード」です。

1832年にパリで初演されました。バレエ史としては1830〜1860年がロマンティック・バレエの時期なので、初期の作品です。

白い妖精のバレエや、トウシューズの技術が誕生する時代でもあります。この作品を創作して初演にあたったタリオーニ父娘のことも有名です。

「ラ・シルフィード」のバレエ作品ができるまでの歴史をたどってみましょう。

ラ・シルフィードのお話はどこから?

物語の台本を書いた人は、アドルフ・ヌリという人で、オペラ歌手でバレエ愛好家でもあった人です。

まだ当時は妖精のバレエは少なかったころに、1822年に出版された「トリルビー」というシャルル・ノディエの書いた物語にヒントを得て台本にしました。

「トリルビー」とは、スコットランドのハイランド地方を舞台に、男性の妖精が漁師の妻に恋をするという話です。ロマン主義が流行していた当時は、空想の超自然をイメージするものや、地方色を打ち出すテーマが好まれていたそうで、この物語もぴったりでした。

実際のバレエの「ラ・シルフィード」は、空気の精になります。

スコットランドの農村で、結婚しようとしていた若い男女がいました。でも、美しい女性の空気の精が二人の仲を邪魔しようと表れ、その美しさに男性(ジェームズ)が恋に落ちる話です。

農村のみなの集まりに謎の魔女が入り込むとジェームズは追い払います。それに怒った魔女はジェームズに、スカーフを渡して「シルフィードにあげると喜ぶ」と嘘をつきます。シルフィードに渡すと大喜びしますが、やがてスカーフにかけられていた魔女の呪いでシルフィードは死んでしまいます。

ジェームズはシルフィードを失うだけでなく、婚約者であった恋人(エフィ)までも、別の男性(ガーン)と結婚されてしまうという悲しいお話です。

参考 ラ・シルフィードのあらすじ・鑑賞ポイント

ラ・シルフィード バレエ鑑賞の見どころ(ブアノンヴィル版・ラコット版)La SYLPHIDE - バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ

このバレエの特徴は、幻想的な妖精の役とバレエ・ブラン(真っ白なバレエ)の芸術性が高く、タータンの民族服に包まれたスコットランドの地方色も個性的で、今も世界中に広く愛されているバレエです。

「ラ・シルフィード」を作ろうとした人たち

シルフィード役を演じるマリー・タリオーニ

ヌリは台本を書いたあと、パリ・オペラ座の理事ヴェロン博士に見せました。するとすぐに気に入りました。

そこで、振付家のフィリッポ・タリオーニと娘でバレリーナのマリー・タリオーニに見せました。

タリオーニ父娘もこの台本を読んで気に入り、「ラ・シルフィード」という題名を決めたそうです。

早速くるくると舞う空気の精の踊りを考案していたといいます。

参考 

タリオーニ父娘は実力のある振付家とバレリーナの親子で、父のフィリッポは振付家のキャリアが長く、娘がバレリーナになってからはよく主演させていました。

実際にこのバレエは成功して、娘のマリー・タリオーニがシルフィードの十八番となり、シルフィード=マリー・タリオーニと言ってもいいくらいに有名になりました。

トウシューズをはじめて効果的に使ったバレエ

「ラ・シルフィード」は初めてトウシューズを効果的にバレエ作品に登場させた作品です。それまでにもトウシューズを履いたバレリーナがいたとか、タリオーニが別の作品ですでに立っていたという説はあるのですが、トウシューズをしっかり活かした状態ではなかったのでした。トウシューズといっても、サテンの布の靴で、まだ硬い芯材などは入っていない靴です。長時間立つことも難しい靴でしたが、空中と地上の間の「第三の平面」(シリル・ボーモント)を効果的に演出したのは、この「ラ・シルフィード」が最初となりました。

衣装のデザイン性

ラ・シルフィードでは、衣装も特徴的でした。

それは、体のラインを隠すようなデザインと、軽やかなイメージです。

それまでの衣装にはウエストをはっきりと見せて体のラインを強調したり、ボーンの入っている衣装などはありましたが、ラ・シルフィードのようにスカートから足元は生々しすぎないで体のラインを隠すようなものは革新的でした。

そのようにして、空想の世界であることを表現しようとしました。

背中には羽がついていたり、ジェームズにもらったスカーフをまとったり、まるで空気の精が地上に舞い降りたかのような装いは、世の中にもシルフィードのスタイルを流行させました。

頭には花飾り、ネックレス、ブレスレット、イヤリングなどには真珠のアクセサリーをつけており、今もラ・シルフィードの衣装には同じく用いられることが多いです。

ラ・シルフィードからジゼルへの影響

初演の「ラ・シルフィード」の公演はたくさんのパリの文化人が集まったそうですが、そのなかにゴーティエがいました。文筆や舞台批評で有名な人で、ゴーティエはのちにジゼルの着想を台本にした人でもあります。

ジゼルとラ・シルフィードはバレエ・ブランが似ている作品ですが、実際にゴーティエはラ・シルフィードからのインスピレーションを多分にジゼルの創作へ盛り込んだそうです。

ジゼルは作品の内容としてはロマンティック・バレエの最高傑作の一つと言われるほどで、ラ・シルフィードと対応するようにバレエ・ブランのウィリー(精霊)の場面があります。現実と空想の間をさまよう人間の感情を描き出しているのも、ロマンティック・バレエの時代ならではの香りがします。

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