バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ

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バレエ椿姫 深い愛とショパンの音楽に、涙。

“あなたがあなたのためじゃなくて、あたしのためにあたしを愛してくださることが、あたしによく分ったからなのよ。”

「椿姫(つばきひめ)」という物語を知っていますか。

1848年に出版されたパリの小説家デュマによる原作をもとに、その4年後1852年ヴェルディ作曲のオペラが公開され有名です。

バレエでもNYCB、アシュトン、ベジャールなど様々な振付家が創作し、今ではジョン・ノイマイヤーが1978年に発表した作品が、見事な完成度で世界的に愛され続けています。

文学にしても舞台にしても、子供の頃にはどうしても興味が持てなかったけど大人になると急に魅了されるような作品ってありませんか。

人生のライフステージが変わったり、なにかの経験をすることで自分の身近に感じられるようになったり、登場人物に共感できるようになったり…

告白すると、椿姫は昔のわたしにとってそんな感じの作品でした。やはりあらすじは大人のバレエという感じです。でも年齢も関係してか、マルグリットという女性の愛の深さと、バレエ作品の秀逸な構成に、どっぷり魅了されるようになりました。(^^)

まだ知らない人も多いと思います。

椿姫の世界をちょっとのぞいてみましょう。熱が冷めやらないうちに書かなければ(笑)。

登場人物

マルグリット・ゴーティエ 主人公の女性 高級娼婦

アルマン・デュヴァル マルグリットに恋した青年

ムッシュー・デュヴァル アルマンの父

プリュダンス マルグリットの女友だち

ナニーヌ マルグリットの侍女

オランプ マルグリットの娼婦仲間の女性

ガストン アルマンの友人でマルグリットに紹介する

あらすじ

長くなりますが、原作に近い形で、ざっくりと紹介します。(厳密にではないのでお許しを)

椿姫とは、主人公の女性マルグリット・ゴーティエのこと。パリに住む高級娼婦で、若くて綺麗で、娼婦にしてはどこか伯爵夫人のように気品がある、不思議な佇まいでした。

お金持ちの男性貴族に囲まれながら、生活費や金品をもらい、立派な家で豪勢な暮らしをしています。観劇も好きで、公爵たちと桟敷によく出かけました。

マルグリットは病気を抱えていて、肺結核と見られ、具合は悪くなる一方。それでも、体に負担をかけ続けながら社交界で夜更かしして遊んだり、派手な暮らしをやめることができません。背が高く細身の華奢な体に病気が進行していきますが、残された美貌と気品で、取り巻きの貴族があとを絶ちません。いつも椿の花を胸につけていたので椿姫と呼ばれました。

このマルグリットと恋に落ちるのは、若くてそこまで裕福でもないけれど、父の仕送りで、そう不自由なく生活していたアルマン・デュヴァルです。

二年前偶然見かけたマルグリットにひそかに憧れていましたが、取り巻きの紳士が多く、娼婦に馬鹿にされるのが怖くて、なかなかチャンスがありませんでした。でも、彼女が病で寝込んでいるという噂を聞き、名前を名乗らずに毎日家をたずね侍女に具合のほどを確認するほど、すっかり恋していました。

ついにガストンの紹介でようやく落ち着いて挨拶できる日がやってきます。思いのあまり告白すると、マルグリットはアルマンが自分の生活を養えないことがわかっていたので、断ろうとします。でも、マルグリットのことを娼婦としてではなく1人の女性として、他の誰よりも病気を心配し、助けになりたいほど愛してくれていることを知り、マルグリットも運命を感じていきます。かの「マノン・レスコー」の物語に自分とアルマンの姿が重なることを思い憂います。

でも、マルグリットの暮らしは変えることができません。だから、高額な資金をくれる貴族との縁を切ることはできなかったのです。アルマンは他の男性と手を切ってほしいと言いたいのですが、どうしようもありません。本当にマルグリットが愛していたのはアルマンでした。だからわたしがなにをしていようとも心配せず信じてほしいと訴えます。

二人は、パリから田舎に離れて、隠れ家をこしらえて暮らすことにします。田舎で静かに療養していた方が体のためでもありました。

マルグリットは宝石や貴金属を質に出して、アルマンには内緒で資金をやりくりしていました。心配をかけたくなかったからです。でも、アルマンが気づきます。養えない自分の惨めさと、マルグリットの金品を手放していることにも、いたたまれなくなりました。

でもマルグリットはそんなことよりも、アルマンと一緒に過ごすことの方がずっと大切なほど、愛していたのです。

(…これでお話が終わればいいのですが、どんでん返しがやってきます。)

アルマンの父は離れて暮らしていましたが、連絡をよこさない息子を心配していました。アルマンが田舎の家を不在にしている間、父はマルグリットと二人だけで話をすることに成功します。内容は、息子と別れてほしい。切実な要求でした。

マルグリットは、受け入れられません。アルマンに対して、自分は金銭的な迷惑をかけていないことも説明します。アルマンの父は驚き、勘違いを詫びます。でも、アルマンが娼婦と付き合うことで地元で悪い噂が広まり、家系に迷惑がかかっていて、アルマンの妹の縁談が取り消されるかもしれないのだと打ち明けます。だから、アルマンのために、関係を絶ってほしい… そしてアルマンにはこのことを秘密にしておいてくれ、と願い出るのです。

さあ、あなたがマルグリットだったら、聞き入れますか。断りますか。

マルグリットは、娼婦であることの現実を受け入れ、アルマンのために身を引くことにしました。命が長くないこともわかっていました。田舎の家からは黙って出て行き、パリへと戻ります。アルマンは、マルグリットが自分をもう愛していないから逃げ、裏切られたのだと思い込み、傷心で復讐に出ます。

パリに戻ると、ほかの男性貴族といるマルグリットを見つけ、これみよがしに嫌がらせをしていきます。マルグリットに対して、オランプを激しく愛しているような振りを見せつけて、嫉妬と傷心をあおります。マルグリットは、秘密をしっかり隠すのに精一杯。それでもなお心を痛めつけられ、心身ともやつれてしまいます。

本当は、アルマンを愛していたのですから。

しかも、病状は悪化していきます。死期が迫ると、あんなに囲んでいた貴族も去ってしまい、マルグリットは孤独でした。

ただ一人愛するアルマンにも会うことができない。秘密も言えない。

そこで、自分が死んだ後に手渡してもらう日記を書き、侍女に託すことにしました。秘密を打ち明け、自分が愛していた真実を伝えるためです。

アルマンが本当の真実を知ったのは、マルグリットが亡くなり葬式も終わったあと。悲しくも彼女の遺品の競売が淡々と行われている中、真っ青な顔で飛び込んでくるのでした。

ドラマチックな回想

ジョンノイマイヤー振付のバレエ作品では、クライマックスの二人の感情のすれ違いと愛情が見事に描かれています。

小説では言葉で論理的に説明できるので、時間軸が遡る「回想」という構図を表現しやすいものです。原作ではその時間軸の推移が見事に映画のように描かれています。

セリフもないバレエ作品では、それを実現させるのは少し難しいように思えないでしょうか。

ジョン・ノイマイヤーの素晴らしいところは、それを自然と、しかも場面転換なしに、まるでそのまま映画化したかのように、見事に世界観をバレエで映し出していることです。マノン・レスコーを鑑賞しながら自分の生き方と重ね合わせて思い憂う場面や、マルグリットが亡くなったあとアルマンが回想する情景などはもう秀逸です。

結末では、アルマンが亡きマルグリットの日記を侍女から受け取り、ゆっくりとページをめくって読んでいきます。マルグリットは、自分のことをそれでも愛し、そして孤独に死を受け入れていったのだと知るのです… なんてことをしてしまったのだ!と。

そう回想している舞台の後ろでは、まだ生前の頃のマルグリットが、咳き込みながら最期の力を振り絞って筆を運んでいます。

舞台では、ほんの数メートル先にお互いいます。

でも、二人はもう二度と目を合わすことはありません…

もう、この構図は、天才的としかいえないくらいに心がぐっと持っていかれ、鑑賞するたびに涙がぽろぽろこぼれてきます。

失ってから気づいては遅いのだ。

愛の形は、決して目に見えることばかりではなく、目に見えないこともあるのだ。

そう思わずにいられません。

音楽は、ショパンのピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11第2楽章ロマンツェ。この音色で、より一層涙をが引き出されます。

第2楽章: LARGHETTO

第2楽章: LARGHETTO

  • フジ子・へミング
  • クラシック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

個人的に大好きなので、この曲を選んだというのが本当に最高です…。

バレエとオペラ

ちなみに、バレエ作品での椿姫は、ドイツのハンブルクバレエ団を率いるジョン・ノイマイヤー振付の作品が一般的に知られています。

オペラはどうなのか?というと、原作が出版されてまもない時代に、ヴェルディが作曲してオペラ化されました。バレエよりもずっと昔から存在しています。

バレエは、ショパンが作曲した音楽を中心に構成され、もともとはこのバレエのために作られたわけではないのですが、まるでこの作品のために書かれたかのような調和で、筆舌に尽くしがたいです。

なので、オペラとバレエでは音楽もまったく異なります。

オペラでは、「乾杯の歌」などが有名です。そして、タイトルが「ラ・トラヴィアータ」(道を踏み外した女という意味)になっていることがあります。

ヴェルディが椿姫を書こうと思った理由には私生活の事情も(似た境遇をかかえていた?)あるようですが、当時から人気となり、今も名作です。

オペラとバレエで、混同しやすいことがあります。

それは、登場人物の名前が違うこと。

マルグリットは、オペラだとヴィオレッタ。アルマンは、アルフレードになっています。これは、混乱しますよね(笑)上演されるまでにいろいろな事情があったのかどうか。

また、あらすじ・結末がアレンジされていることも混乱を招きやすいですね。

場面の設定されている場所、筋書き、進行が違うので、一見、同じ作品に思えなくなってきてしまうのです。

でもこれは、一つの題材をもとにした演出や表現手法の違いにすぎません。しかも音楽まで違うのですから…「バレエはバレエ。オペラはオペラ。」と割り切って別物の作品として楽しめばよいのではないでしょうか。

原作

原作はこちらの小説。実話を元に描かれたそうです。

椿姫 (新潮文庫)

椿姫 (新潮文庫)

小説の長さはそこまで長編ではないかなと。比較的読み切りやすいです。

作者は、1848年当時24歳のアレクサンドル・デュマ・フィス。パリ生まれ。

椿姫のモデルとなった女性

椿姫のモデルとなった実在の女性は、デュマと同い年であった、高級娼婦アルフォンシーヌ・プレシ(マリ・デュプレシ)と言われています。貧しい村の生まれの、美しい女の子。母を亡くし、父は酒に溺れていたためパリに出て、安レストランの主人に囲われていましたが、美貌から貴族のパトロンを得て、高級娼婦へとなっていったそうです。

肺結核をわずらい、放埓な暮らしぶりで、青年デュマに出会いました。

実は伝説的なピアニストのリストにも恋した女性なのだそう。リストはそこまで本気ではなかったようです。バレエ作品の椿姫では、リストの友人であったショパンの音楽が使われているあたり、なんだか絶妙だなぁと思いますが…。どおりで、世界観や時代背景からも音楽と物語がマッチするのでしょうね。

デュマと出会ったときは二人とも二十歳という若さ。すべてはわずか一年半の出来事であったそうです。

詳しいエピソードは、こちらも参考になります。

ヴェルディ 椿姫 (オペラ対訳ライブラリー)

ヴェルディ 椿姫 (オペラ対訳ライブラリー)

バレエ椿姫で使われているショパンの曲目

  • ピアノ・ソナタ第3番ロ短調作品58第3楽章ラルゴ

  • ピアノ協奏曲第2番へ短調作品21

  • 華麗なる円舞曲変イ長調作品34の1

  • 3つのエコセーズ作品72の3

  • 華麗なる円舞曲へ長調作品34の3

  • 24の前奏曲作品28第2番イ短調第24番ニ短調

  • ポーランド民謡による大幻想曲イ長調作品13ラルゴノントロッポ、アンダンティーノ、ヴィヴァーチェ

  • バラード第1番ト短調作品23

  • アンダンテ・スピアナート変ホ長調作品22

  • 華麗なるポロネーズ変ホ長調作品22

  • ピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11第2楽章ロマンツェ

ショパンがお好きという方にも、ピアノの存在をこれほど意味あるものに引き立たせているバレエの椿姫を、ぜひご覧いただきたいです。

バレエ作品を観たい!と思ったら、パリ・オペラ座の市販されたDVDや、ボリショイバレエのシネマライブビューイングで、ザハロワ主演の公演が観られたりします(開催頻度がとても少ない)。つい先週、ハンブルクバレエ団が来日公演でも行い、それはもう感涙しましたよ… 感想書ききれません。またあらためて。

みなさんも、小説からでも、オペラでも、バレエからでもいいので、気になったらチェックしてみてくださいね。