パリ・オペラ座展は総合芸術
現在アーティゾン美術館で開催されている「パリ・オペラ座展」がこれまで私も紹介してきたバレエの歴史をわかりやすく体感できる充実にした内容になっています。
なにより、バレエだけでなく、オペラ、美術、文学、建築などの総合芸術をまとめ上げるような美術展になっており、各分野の専門家の先生方が結集して5年かけて実現に至ったそうです。
エドガー・ドガとパリ・オペラ座の関わりのコーナーも充実していました。
バレエの歴史ではフランスのパリ・オペラ座がバレエの黎明期〜発展期のそのものの歴史になっており、その後のロシア・バレエへにも影響し、20世紀にはバレエ・リュスとしてパリに戻ってきます。
ここでは、数多い貴重な美術展資料の中から、これまでの発信内容を振り返ることのできる作品を厳選してご紹介します。
これから見にいく方も、見にいくことができない方も、クラブハウスでトークも行いますのでぜひ感じてみていただければと思います。
展覧会構成
- 序曲 ガルニエ宮の誕生
- 第I幕 17世紀と18世紀
(1.「偉大なる世紀」の仕掛けと夢幻劇、2.音楽つきの「雅宴画」(フェート・ギャラント)、3.新古典主義の美的変革)- 第II幕 19世紀 [1]
(1.ル・ペルティエ劇場、2.グランド・オペラ、3.ロマンティック・バレエ 、4.装飾職人と衣装画家 *パリの観劇をめぐって)- 第III幕 19世紀 [2]
(1. グランド・オペラの刷新、2.ドガとオペラ座、3. 劇場を描く画家たち、4.ヴァーグナーの美学 *作家とオペラ座、ジャポニスムとオペラ座)- 第IV幕 20世紀と21世紀
(1.バレエ・リュス、2.近代芸術とオペラ座、3.画家・デザイナーと舞台美術、4.演出家と振付師のオペラ *映画とミュージカル)- エピローグ オペラ・バスティーユ
ロマンティック・バレエ時代
バレエ・ブラン発祥のオペラ「悪魔のロベール」に注目!
バレエ・ブラン(白いバレエ)という幻想的な白いバレリーナが幽玄を感じさせるようなバレエは、もともとオペラの「悪魔のロベール」に出てくる修道女の一場面がきっかけになっています。
なかなか「悪魔のロベール」はオペラとしても上演されることがほぼほぼ少なく、どんなオペラであったのか気になりますよね。
第II幕 19世紀 [1]2.グランド・オペラのコーナーで、「悪魔のロベール」を知ることができる絵画や、挿絵付きの譜面を見ることができます。
特に、オギュスタン・シャラメル『オペラ座のアルバム』(1844)では、1階客席後方からオペラ座の建物に囲まれて修道女のバレエの舞台が上演されている様子が描かれています。バレリーナの姿ははっきり描かれていないのが残念なのですが(遠いので遠近法的にはぼやけても仕方ないのですが)雰囲気を感じることができます。
また、兵庫県立芸術文化センターの『悪魔のロベール』(挿絵付き譜面)では第1幕の場面ではありますが、白いスカートを着た女性たちの絵が描かれています。
マリー・タリオーニのトウシューズ
マリー・タリオーニは、ほぼ最初期にトウシューズを履いて舞台で効果的に踊ることのできたバレリーナです。バレエ・ブランの始まりにあたる、ラ・シルフィードを踊りました。
マリー・タリオーニの所有していたトウシューズが展示されています。サテンの薄いピンク色が艶々に光っており、華奢なリボンがつけられており、新品状態で汚れもないものでした。
ほかにマリー・タリオーニの絵が複数展示されており、シルフィード姿のブロンズ像や、直筆の書簡もありました。
撮影可能なコーナーにて
また、マリー・タリオーニの愛弟子であったエンマ・リヴリというバレリーナの絵もありました。マリー・タリオーニは父が振付師のフィリポ・タリオーニですが、マリーはあまり振付はせず唯一「蝶々 パピヨン」をエンマ・リヴリに創作したといいます。その時の台本です。
エンマ・リヴリはあいにく劇場内でスカートに火が燃え移り火事で犠牲になってしまったお方です。長生きされていればマリーの愛弟子ということもあり才能あるバレリーナとして活躍していたのかなと思うと、この時代は現在のように電化されていない設備のため火事が多いものですが、それにしても残念ですし、現代の劇場は厳重に安全性を高めてきた結晶なのだと感じます。(劇場の裏は大道具や緞帳などの大型装置で危険な場面もあるため、通常舞台監督やスタッフが出演者たちに危険が及ばないよう最前線で配慮して静かにセーフティネットを築いてくれているものです)
ファニー・エルスラー タリオーニと匹敵する踊りに観客は熱狂した
マリー・タリオーニと同時代に活躍したファニー・エルスラーは、観客たちを熱狂させてタリオーニ派とエルスラー派ができたとも言われているバレリーナです。今で言う推し活ですね。エルスラーの絵も貴重で、このカチュチャの踊りが彼女を一躍有名にした作品です。
カルロッタ・グリジ 最初にジゼルとなったバレリーナ
ジゼルの作品ができるまでに、最初に踊ったバレリーナのカルロッタ・グリジを紹介してきました。彼女の絵が展示されています。
また、ジゼルの初演に関わる台本も実物がありました。色褪せている紙面の質感からしても、こんなに古い時代からあったのだと実感しますね。
「パ・ド・カトル」バレリーナ4人共演が伝説
パドカトルについてもクラブハウスでよくお話ししてきたのですが、ジュール・ペロー振付の幻の作品です。後世にこの作品をオマージュするパドカトルが作られたりもしています。
バレエ・リュス時代
セルゲイ・ディアギレフの私物
1909〜1929年に活動していたバレエ・リュスのプロデューサー、セルゲイ・ディアギレフが実在した人物なんだという当たり前なのですが100年前の人物を想起すると感動すら覚える、彼の私物が展示されています。
黒いつばつきの帽子、片眼鏡、時計、劇場用双眼鏡、カフスボタン、(書類鞄は展示予定がキャンセルになってしまったそうです)。まさに仕事道具一式というアイテムで、年季の入った実物を見て、これでバレエ・リュスを率いていたのだなぁとぐっと身近に感じられました。
クラブハウスでは、こちらの漫画をみんなで読書会したことがあります。
まるでディアギレフに会ったわけではないのに会った錯覚をしそうな印象でした。
火の鳥
火の鳥はバレエ・リュスの代表作で、クラブハウスでも作品解説をお話したことがあります。
ジャック=エミール・ブランシュ『『火の鳥』のタマラ・カルサヴィナ』(1910頃)は、美しい出立ちの手足を伸ばしポアントで立つ姿が描かれていました。
200✖️170cmの大きな作品です。今にも油彩画のキャンヴァスから飛び出してきそうです。向かって右手のアームスの先を見つめており、きらきらと光りながら飛び回る火の鳥の美しさにひとめぼれをしそうでした。衣装と頭飾りの羽がふわっと逆立っているのもこの絵に動きを生み出しています。
シェヘラザード
シェヘラザードは今でも人気のバレエ・リュス代表作ですが、初演をしたイダ・ルビンシュタインの絵がありました。
こちらも大きなサイズで150✖️180cmもあり、横たわり堂々とこちらを見る瞳にぐっと胸をつかまれました。
図録は通販も可能
図録やオリジナルグッズの一部がアーティゾン美術館のオンラインショップで販売されているようです。遠方でも作品を見たい方や、買いそびれてしまった方もぜひおすすめです。
「パリ・オペラ座―響き合う芸術の殿堂」カタログ ID 100047512 フランス国立図書館をはじめとする国内外の約250点の作品により、芸術的、文化的、社会的な視野からパリ・オペラ座の多面的な魅力を紹介し、その歴史的な意味を明らかにする本展。カタログでは出品作品の図版に加え、作品解説、論考等も掲載しています。
仕様:A4変形/本文372頁/並製本
編集:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館、三浦篤
執筆:三浦篤(東京大学大学院教授)、ステファン・リスナー(サン・カルロ劇場総裁/パリ・オペラ座前総裁)、マティアス・オクレール(フランス国立図書館音楽部門長)、ブノワ・カイユマイユ(フランス国立図書館音楽部門副部門長)、野平一郎(東京音楽大学教授)、寺田寅彦(東京大学教授)、芳賀直子(舞踏史研究家・大正大学客員教授)、中島智章(工学院大学教授)、賀川恭子(石橋財団アーティゾン美術館学芸員)、田所夏子(石橋財団アーティゾン美術館学芸員)
デザイン:高岡健太郎(日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社)
発行:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館
2,860円 税込
アーティゾン美術館へ行くことができる方はぜひ足を運んでみてください。
2023年2月5日までです。