ダンスのパフォーマンスにおいての「適性」について考えることがあります。
肉体面の適性と、心理面の適性のバランスについてです。
バレエ教室のような現場で多くの人が話題にするのは、肉体的な適性について語られる機会の方が多くなりやすいように思います。
「もっと筋力を付けないと〜」
「脚が上がらないから〜」
「生まれつき〜の体型だから」
こんなようにパフォーマンスの適性を肉体面で置き換えることが多いように感じます。
ダンスというのは肉体が動いて成り立つところもあるので、それは当然といえば当然ですが…
一方で、表現者としての適性というのは、心理的な面に重きを置く傾向が熟達者になるほど多くなっていく、というのも感じています。
特に大人バレエを楽しむ趣味の世界としては、肉体的な条件・限界がある中で(実際には子供でもありえるのですがそれはここでは置いておき)、心理的な適性にも思考が向くようになると、楽しみの深さをもっと味わえるようになるのではないかと思っています。
そこで、ここでは心理的な適性について触れたいと思います。
そもそも、適性とは何でしょうか?
によれば「適性」の定義はこのようになっています。適性(attitude)とは特定の課題環境において成功する可能性を高める(あるいは低める)ような個人の性質を指し、パフォーマンスに影響を及ぼす個人差変数の総称
つまり、どれだけパフォーマンスが成功するかの影響を与えるものということです。
成功とは何をもってなのかにもよりますが、ここでは「課題をこうやって披露したいと意図した通りにできる状態」と解釈してみます。
そして、適性とは“実現可能性を左右する当人の「ポテンシャル」を意味する” とも定義されています。
やや抽象的な言葉が並んでいますが、注意したいのは心理的特性が取り上げられている点です。
- 認知特性: 知性、スキルなど
- 感情特性: 気質、パーソナリティ要因など
- 意欲特性: 興味、指向性など
知情意にあたるようなところです。
さて、実際のところ具体例を考えてみます。
自分の周りのバレエに携わる人たちを見ていても、やはり長く経験を積んでいく人たちはこれらのバランスを(多少個人差はあったとしても)その人に応じたバランスを保ちながら持続しているように思います。
始めからバランスができていたわけでなくとも「さまざまな出会いや経験や価値の発見などを通して、その人にフィットするバランスを培っていく」という言い方のほうがより相応しいかなと思います。
つまり先天的な要素だけでなく、後天的な要素も含めて、曲がりくねった人生の道のりであったとしても、その人ならでは・その人だからこそのスタイルの組み合わせが出来上がっていくものだなぁ、と思うのです。
知性がなんらかのきっかけで伸ばされたり、一定の興味が尽きる前に新しい興味や好奇心を見つけたり、気質にむらがあったとしてもだんだん整えられていく、といったことなどです。
とはいえ、肉体的な適性と向き合うというのはダンスで避けて通れないところではあります。
入門者のときは、まず形から真似て学ぼうという意欲がとっかかりになることも多いので、肉体面の適性から関心を持ちやすいというのは自然な流れかもしれません。
でも私の考えとしては、ダンスに携わる人の多様性を大事にしたいという思いもあるので、肉体面しか見ないというよりも心理面からも適性に着目していきたいという気持ちがあります。
ただ、指導者からの立場として勘違いしてほしくないところは「心理的適性はダンスをするためのハードル・前提条件ではなくて、あくまで自分の伸びしろ、ポテンシャルとして受け止めてほしいなぁ」ということです。
「性格的にコツコツ練習できないから向いてない」とか「興味を持ったのは最近で、これまで長い間ずっと興味がなかったから、自分には資格がない」などではないよ〜ということです。
(コツコツ型の性格でなくても、最近興味をもったばかりだとしても、そのスタイルで楽しめばいいのです)
もしも「あ〜これはわたし考えていなかったなぁ」とか「これは成長させたいかもなぁ〜」と、興味を持てる心理的適性が、ひとつ、ふたつ、あったならば伸びしろの発見になるかもしれません。
好奇心をもって伸ばせるか向き合ってみたり、成長できそうな経験に飛び込んでみたり、それらを持ち合わせている人から学ぶという意味で真似てみたりすると、さらにダンスが楽しくなるかもしれませんよ〜、という提案です。
そしてもう少し前のめりな言い方をすると、こんなふうにも思います。
「肉体を鍛えていれば、精神が付いてくるだろうな(だといいな)」という控えめな立場を日本人だと特に取りがちな面があると思います。
でも「肉体面はまだまだだけど、いったん心理面からでも整えてみよう!」という立場があってもいいと思うのです。
あるいは、「心理面から成長していきながら、肉体面も限界があるなりにポテンシャルを探っていこう!その方が、楽しんで成長できる気がする」という視座です。
これは実際に私の生徒さん方に多い「立場の転換」で、ある種のパラダイム・シフトのようにも思います。
前者で居場所を持てずに寂しく苦しんだ経験がある人ほど、後者にひらめきを得るケースが多々あります。
バレエを辞めそうになっていた方が、イキイキと目を輝かせて取り組むようになったりします。
どちらがいい・わるいという話ではなくて、その人が幸福感をもってバレエに取り組める姿がその人の正解なのだろうと私は思っています。
現在から未来への可能性に伸びしろを見出すという気持ちで、「ダンスの適性」という概念とうまく付き合っていけたらと思います。