ボリショイ・バレエ in シネマ 1日だけの特別上映で、2017年1月に収録されたばかりの眠れるの森の美女も観てきたのでメモしておきます。
ボリショイ劇場での公演日から3週間も経たないうちに、最新のバレエ公演を映画館で見られるなんて。ビデオしかない時代には考えられないくらい、やっぱり便利な時代です。
(リアルタイムでないのがちょっと残念ですが、それでもやはり良い!)
眠れる森の美女
モスクワ公演日:2017年1月22日
【音楽】チャイコフスキー
【振付】ユーリー・グリゴローヴィチ
【原点振付】マリウス・プティパ
【音楽監督】パーヴェル・ソローキン ボリショイ劇場管弦楽団オーロラ姫:オリガ・スミルノワ
デジレ王子:セミョーン・チュージン
悪の精カラボス:アレクセイ・ロパレーヴィチ
リラの精:ユリア・ステパノワ
侍従長:ヴィタリー・ビクティミロフ
青い鳥:アルテミー・べリャコフ
フロリナ王女:アナスタシア・デニソーワスケジュール
イントロダクション、案内 約22分
第1幕 64分
休憩 25分
第2幕 66分
カーテンコール、クレジット 10分
(合計187分)
公式サイト http://bolshoi-cinema.jp
シネマ全体の上演時間は、約3時間。けっこう長いかなと感じていましたが、幕が始まると夢中で観てしまいましたのであっという間でした。
幕の間・休憩でも、舞台裏の様子をできるだけ映してくれているので、休憩時間は長いのですが、インタビューやダンサーの様子を見ていると意外と時間が過ぎてしまいました。
オーロラ姫のスミルノワさんは、もう1幕の登場からみずみずしくて、新緑の若葉のようなフレッシュさを感じました!上体も美しくて、脚が強くエネルギッシュ!
まるで花畑のようなキラキラのローズアダージオに、しっとりとした幻想の場、ラストの結婚式のグランパドドゥまで目が離せませんでした。
解説の中で、オーロラ姫は特に「光」の象徴なのだというくだりもありましたが、それを体現する舞台でした!
オーロラとは、もともと曙の光を指すと言われ、次に創作されたくるみ割り人形のクララ月の光なのだという話もあります。*1 1つの物語バレエも、発展するといろいろな版が生まれていて、もともとの原型をとどめていないくらいの作品もありますが、このシネマでは原点の様式美を堪能しました。
スミルノワさん自身の素晴らしい技術もあり、それを支える周囲の役柄や舞台美術・衣装、すべてがこの物語の「光」というテーマを表現していたように思います。
王子のセミョーン・チュージンさんがまた、非の打ち所の無い演技でした。
よく男性は難しい複雑なパもよく見かけますが、バッチュ(足を打つ)が少なめでもひとつひとつ丁寧に仕上げていく感じが、かえってとても格式高い。
そしてさりげなくジャンプからの着地にアラセゴンドで脚を抜きながらプリエ…と、(基礎の裏打ちがあるからできる美しさ!)派手すぎず優雅なステップにうっとりしました(笑)。
同様にして、青い鳥もエレガントでした。これぞ青い鳥、といわんばかりの雄弁でしなやかな羽(アームス)でした。
踊りも魅了をあげはじめると切りがありません…
振付はグリゴローヴィチ版で、いろいろな人が楽しめるように、ストーリーのつなぎ目を細かく演技して表現していたり、役柄ごとの個性と見どころまでじっくり楽しめるように演じられていました。
グリゴローヴィチ氏は、バレエのマイム(手と上半身で会話を表す仕草)を極力減らして、親しみやすい工夫をした人物としても知られています。マイムって、鑑賞初めての人には何を会話しているのかわからないのですよね…。マイムを使わなくても、物語を伝える工夫は大事です。
幕間には、往年ボリショイの名花と呼ばれた、リュドミュラ・セメニャカさんが登場されました。過去にオーロラ姫をずっと演じていらした方で、今はなかなかお目にかかれないのでそれも嬉しかったです。
舞台裏
シネマの中では、踊りだけでなく舞台裏も見られるのが面白い点。
ボリショイ劇場の客席を見渡し、歩きながら楽屋への通路も紹介してくれたり。
「劇場にいるんだ!」という気分にさせてくれる工夫が多かったです。
国賓の特別席についてもふれられ、スターリンは常連だった、というエピソードも。旧ソ連の要人が鑑賞するだけでなく、国際外交の場でもあったボリショイ劇場。ロシアバレエは、文字通りの国宝なのですね。
舞台美術はルイ14世の時代様式をオマージュ
舞台美術に関しても豪華絢爛。さすがの凄みを再認識します。
床のリノリウムもフランス文化らしい文様が入っていました。正直始めはダンサーを見るのに目が慣れませんでしたが…場の転換をするごとにその文様を見ていると、全幕通して格式高さを添えていたように感じました。
群舞では、ダンサーたちがその文様に合わさって並ぶ感じも興味深かったです。
舞台美術はこれまで改良・新調させつづけてきたようですが、今回も使用している版は、フランス国王ルイ14世への尊敬のオマージュなのだそうです。
舞台美術を見ているだけで、すっかり宮殿にいるような気分になります。天井まで高く作られていて、ふつうは幕で済ませてしまうようなところまで作りこまれていて。
衣装の生地もなかなかお目にかかれない、もはや美術品かのよう。
ちょうど、ルイ14世以降の時代からのロココ調絵画を想起させるような感じ。
「絵画からそのまま出てきたんじゃないか?」というくらいでした。
初演でも、当時の帝室マリインスキー劇場支配人が「ルイ14世時代の様式を」と創作したそうです。
原点回帰、現在ここまで作り込みができるバレエ団は稀有な気がします。
ロイヤル・バレエのシネマとの違い
映画館で見られるバレエといえば、ロイヤル・オペラ・ハウスのシネマもあります。
実際にロイヤル・オペラ・ハウスのシネマと比べて気づいたのは、ボリショイは松ヤニ(シューズの滑り止め)の音や、客席の音まではっきり録音されていたこと。
もしかしてオーケストラピットに近いところで録音されているのか、楽譜をめくるような音(?)も感じられたように思います。
これは好みの問題と思いますが、個人的には、松ヤニが聞こえるくらいの方が、本当にリアルで臨場感がありました。
トウシューズと松ヤニが摩擦する、あの「キュキュッ」とした音を聞いていると、まるでリハーサル室にいるようでした…。
ボリショイも、シーズンを通していろんな演目があります(次回は白鳥の湖)。
今後も楽しみですね。