- バレエ「海賊」の登場人物
- あらすじ
- 原作のバイロン「海賊」叙事詩との違い
- 叙事詩「海賊」のあらすじ
- バレエ化を手がけたのは振付家ジョゼフ・マジリエ
- ジゼルの制作チームが後押し
- 音楽はアダン、のちに他の作曲家が追加されていく
- 初演のダンサーと踊り
バレエ「海賊」は、1856年にパリ・オペラ座で初演されたロマンティック・バレエ時代の作品です。
English National Balletの海賊にて、メドーラ役のアリーナ・コジョカルとコンラッド役のワディム・ムンタギロフ
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/ea/Vadim-and-Alina_2706496b.jpg
バレエ「海賊」の登場人物
メドーラ ギリシアの美しい娘
コンラッド 海賊の首領(かしら)
ランケデム 奴隷商人 メドーラやギュリナーラ達を奴隷として売買する
ザイード・パシャ トルコの地方長官 女奴隷たちを集めてハーレムにし、美女を何人も夫人にする
ビルバント 海賊 コンラッドの手下だが反逆を企てる
アリ コンラッドの忠誠な奴隷
ギュリナーラ ギリシアの美女 メドーラと仲良し。奴隷市場に出される
あらすじ
エーゲ海で荒波にのまれる海賊船が揺れている。海に遭難する海賊が数名いるもコンラッドは生き残り、行き着いた島でメドーラに出会う。
第一幕
街では奴隷市場で賑わっている。ギリシア(コス島)に住む若くて美しい娘たちが女奴隷として売られている。奴隷商人のランケデムが各国から集めた女奴隷たちを、トルコの裕福な地方長官ザイード・パシャが物色している。
オダリスク(女奴隷)の三人が踊りを披露したり、ひときわ美しいギュリナーラがランケデムとパドドゥを披露する。
そこへさらに、美しいメドーラが現れ、パシャは気絶しそうなほど惚れ込んで自分の妻にすると大金をランケデムに渡す。
すると海賊のコンラッドが間に入ってくる。メドーラとコンラッドは偶然出会って恋心を寄せていたが、メドーラが売られてしまうと心配で、荒々しい海賊たちを連れて助けに来たのだった。ランケデムを拘束して、メドーラと女奴隷を奪って逃げていく。
第二幕
海賊の洞窟に逃げてきたメドーラとコンラッド。財宝と美女たちを手にした海賊たちは今日の手柄に満足している。
コンラッドとメドーラの二人はすっかり愛し合っている。ビルバントはコンラッドがメドーラに夢中で軟弱になっているのが気がかりだ。
ここでメドーラ、コンラッド、アリの三人によるグラン・パドトロワ(アリが入らない場合はメドーラとコンラッドのグラン・パドドゥ)が踊られる。
アリはコンラッドの奴隷で、従順な性格をしており、コンラッドの救いの手を差し伸べる人物だ。
メドーラは、ギリシアの娘たちが無理矢理奴隷市場に連行されてきたので、彼女たちを家に帰して欲しいと願うと、コンラッドは快諾する。女性たちは大喜びだが、ビルバントは黙ったまま腹を立てていた。
コンラッドとメドーラは二人で寝室に向かっていく。
ビルバントはメロメロのコンラッドに対して謀反に出る。
匂いを嗅ぐと寝てしまうという眠り薬を花に振りかけて、コンラッドを眠らせた後に殺してしまおうという作戦だ。
拘束している奴隷商人ランケデムを利用して、コンラッドに眠り花を手渡せさせ、さもないとない命を奪うと脅した。上手くいけばランケデムは解放され、メドーラをパシャに売り渡せる。
ランケデムは警戒されないように女の子に花を持たせて、メドーラに渡すことに成功。メドーラは花をコンラッドに見せ、彼はうっかり嗅いで急に倒れてしまった。ビルバントの計画通りだ。
メドーラは危険を察知するやいなや、ビルバントたちに取り囲まれていた。ビルバントは無理やりメドーラにキスを迫るもビンタを返され、メドーラはナイフでビルバントの手首を切りつける。
だがメドーラはむなしく男達に囲まれて奴隷商人に連行されていく。アリが駆けつけたときにはもう遅かった。コンラッドの眠りを解き、メドーラを助けに行く。ビルバントは眠っていた間の反逆事件を隠して何事もなかったかのようにコンラッドについていく。
第三幕
ザイード・パシャの宮殿では豪華な祝宴とハーレムが繰り広げられており、ギュリナーラが仕えている。そこへランケデムがメドーラを連れ戻しに来た。パシャは一番の寵姫を手に入れ大喜びで、そこからパシャが眠ってハーレムの夢を見る。
パシャの夢の世界では、美女たちが豪華絢爛に踊っている。ギュリナーラとメドーラの踊りも披露される。これはあくまでパシャの夢での出来事である。
夢から覚めると、パシャの宮殿には不思議な巡礼者たちが顔を隠してやってきた。パシャは彼らと一緒に拝んでいると気づけば変装した海賊達に取り囲まれていた。パシャとランケデムは追放される。再会に喜ぶコンラッドとメドーラ。
だがそこにいたビルバントの手首を見て、メドーラは反逆の犯人を見抜いた。バレたとなると決闘になり、コンラッドはビルバントを撃った。命からがらメドーラとギュリナーラを解放し、宮殿から逃げていく。
海賊船に乗るコンラッド、メドーラ、ギュリナーラ、アリたちの姿が見える。結末は演出版によって異なる。
原作のバイロン「海賊」叙事詩との違い
1814年のバイロンが書いた原作の「海賊」叙事詩は、実はバレエの設定と異なる点が多い。登場人物の名前は共通するものの、人数は少なく、あらすじは大幅に違う。
まず、バレエでは中心人物の一人である「アリ」がいない。コンラッドを手助けして、バレエの見せ場としてはコンラッドよりもむしろ超絶技巧の踊りが多いともいえる存在感の大きなアリがいないのである。
次に「ギュリナーラ」はメドーラと知り合いでもなく関係ない人物で、コンラッドに恋してパシャを殺してしまう強すぎる女性なのである。
そして「メドーラ」と「コンラッド」は夫婦である。バレエでは出会ったばかりの恋人同士であるが、原作の詩では愛し合う夫婦という設定だ。
「海賊手下のビルバント」「奴隷商人ランケデム」という人物もバレエの台本に創作されたキャラクターであることが分かる。
叙事詩「海賊」のあらすじ
原作となったバイロンの『海賊』1814年
海賊の首領コンラッドは、愛する妻のメドーラがいた。敵軍のオスマン・トルコにはザイード・パシャが率いていたが、コンラッドは先制攻撃を狙って仕掛ける。
妻のメドーラはコンラッドに先制攻撃などやめるよう説得しようとするが、聞かなかった。
しかし、コンラッドの計画はかえって仇となり、トルコ軍に捕まって投獄される。
戦いの最中に、捕虜となっていた女奴隷のグルナーラはコンラッドのおかげで助かる。自由の身になり、コンラッドの男前な気概にすっかり惚れ込む。
夫の捕虜の噂を知ったメドーラは、コンラッドの安否が心配で錯乱していく。
グルナーラはコンラッドへの愛のために、パシャを殺害する。
コンラッドはグルナーラの愛に感謝するも、勇敢すぎる行動にかえって恐ろしくなり、やはり自分の愛する女性は妻のメドーラであると再認識する。
命が助かった喜びを伝えようと自宅に戻ると、メドーラはすでに息を引き取っていた。コンラッドが死んでしまったと思い込んでメドーラは亡くなってしまったのであった。コンラッドは悲しみに打ちひしがれ、翌朝にはもう姿を消していた。
バレエ化を手がけたのは振付家ジョゼフ・マジリエ
バレエ「海賊」は初演からすぐに人気集めた演目でした。ロマン主義の流れで海賊のドラマチックな舞台は観客の関心を一挙に集めました。
海賊のバレエ化を推進したのは、振付家のジョゼフ・マジリエです。
パリ・オペラ座のダンサーで、「ラ・シルフィード」の初演にジェームズ役としてマリー・タリオーニと踊った男性です。マジリエは振付家としても活躍しました。
台本はジョゼフ・マジリエとヴェルノワ・ド・サン=ジョルジュ(ジゼルの台本作家でゴーティエの起案をまとめた人物)が協力して制作しました。
ジゼルの制作チームが後押し
台本のサン=ジョルジュと、作曲のアドルフ・アダンには共通点があります。それはジゼルの制作チームであったことです。
音楽はアダン、のちに他の作曲家が追加されていく
音楽は1856年の初演時アドルフ・アダンが作曲をしました。しかし初演の五ヶ月後にアダンは急逝してしまい、海賊の音楽は時代と共に他の作曲家の楽曲がつぎはぎされて踊りやすい曲を集められました。(プーニ、ドリーブ、ドリゴ、オルデンブルク公など)
初演のダンサーと踊り
初演のダンサーは、メドーラ役にカロリーナ・ロザティ、コンラッド役にドメニコ・セガレッティが踊りました。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/5/58/Corsaire_-Medora_-Carolina_Rosati_-1856.JPG
コンラッド役
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初演の頃のコンラッドはマイムが中心であまり踊りがなく、この頃はアリ役はありませんでした。
現代ではガラ公演で有名な第二幕の主役のグラン・パドドゥ(パドトロワ)や、第三幕の壮大なコールドバレエはのちに付け加えられ、主な土台は1899年のプティパ版で出来上がっていったと考えられています。