岩波文庫『海賊』バイロン作(1814年)では、美しいメドーラと海賊コンラッドのラブストーリーが描かれています。
バイロンは19世紀初頭のロマン主義の時代にこの『海賊』を書きました。
情熱の詩人バイロン(1788‐1824)の恋愛観,女性観,人間観をもっともよく表わし,その後の彼の作品の基調をなした叙事詩.憂鬱孤高の海賊コンラッドに,ひたすら純愛に生きるメドラと,主人を弑してまでも愛するコンラッドを救い出そうとする情熱の女グルナーレとを配して,疾風怒濤さながらに変転する局面に抒情の世界を点出する.(岩波文庫ホームページ)
叙事詩の形式で、互いに言葉を歌い投げかけるようにセリフが語られています。
生き生きとしたリズムで、腕っぷしの強い海賊らしい息づかいや愛の高まりを感じます。
1956年にマジリエという振付家がこの詩をもとに、パリ・オペラ座でバレエの『海賊』として作品を初演しました。
トルコ軍で地方長官のザイード・パシャをバレエでは豪奢な宮殿でたくさんのオダリスク(女奴隷)を買い込み、ハーレムを繰り広げる、ちょっとマヌケなキャラクターになっています。
叙事詩に出てくるグルナーレは力の強い女奴隷ですが、バレエではとてもか弱い姫のような女奴隷になっています。
今この本はなかなか書店にも置いていないので、図書館や古書店で見つけた際にはぜひ手に取ってみると、バレエの海賊との違いがよくわかります。
不幸に沈めるときに幸福なりし日を思い出すほど大なる苦痛はなし ダンテ
メドラは立ち上がったー彼女はとびついたー
コンラッドの躰にすがりついて、その手に抱かれた、
彼の心臓は、彼の胸にうづめられたメドラの顔の下で高鳴ってきた。
彼はメドラの顔をもちあげてあの碧くすんだ眼を覗かうとはしなかった。
その眼は伏せられたまま、涙をのんで、もだえていたのだ。
メドーラはコンラッドが攻撃に行こうとすると、あなたも悪人になると制止させようとします。それでもコンラッドは行くと決めて別れの抱擁をします。
(グルナーレ)
愛情はー愛情というものは、自由な心に生まれるものですわ。
コンラッドへの愛を告白するグルナーレの台詞。ザイード・パシャに対しては自分は奴隷であって、愛情などなかったことを語っている。
(メドラ)
彼女の耳にはこれ以上何も聞こえなかったーいや聞こうとしても聞こえないのだー
動悸はどきんどきんと打ち、ー胸がつまってしまったー
その時まではこらえにこらえていたのであったが。
コンラッドが死んだのではないという噂をメドラに聞かせるが、メドラには何も聞こえず心臓が詰まっていってしまう。
ただ、彼(コンラッド)を救うためにあの懐剣は突き刺され、あの血は流されたのだ。
そのおかげで今彼は自由の身となっているのだ
グルナーレは、地上の一切のものを、天上の一切のものを、否、それ以上のものを捧げたのだ!
「いとしいグルナーレよ!」
いとしいメドラとてもこの接吻は許したことであろう、
これほども美しい女に求められたせめてもの接吻を。
『心弱き女』が『誠実な男』からえた最初にして最後の接吻をー
グルナーレが勇敢にザイード・パシャを殺したことで投獄されていたコンラッドが自由の身になり、グルナーレの勇気に感謝している。
生前でさえあれほど淑やかに、美しかったメドラは、
死んでからも、生前にもましてあでやかな姿で、そこに横たわっているのだ。
そして冷たい花が、花よりもっと、もっと冷えきった彼女の手にいだかれていいた。
まさしく、彼にふさわしい宿命だったのだ。
コンラッドが自宅に戻ると、愛しのメドラはすでに命を絶っていた。
部分的ではありますが、ドラマチックな物語の片鱗が伝わるかと思います。
バイロンの他の作や詩集も気になりますね。みなさんもぜひ!