ライモンダ
ライモンダは、若くして女伯爵の気品高い地位の女性で、婚約者で騎士のジャン・ド・ブリエンヌが十字軍に遠征しているので、帰りを待っています。そこへ、異国の騎士であるアブデラフマンが美しいライモンダを略奪しにやってきてしまい…でも決闘の末に恋人同士の二人が結婚式で結ばれるというお話です。恋物語の背景には、十字軍時代の歴史を感じたり、フランス、アラブ、ハンガリーという異国情緒入り混じる独特な世界観が印象的な作品です。
1898年初演 振付 マリウス・プティパ
作曲 アレクサンドル・グラズノフ
時代・地域
中世ヨーロッパの十字軍時代の、フランスのプロヴァンス地方。舞台は、ライモンダの叔母シビル女伯爵の城から。
登場人物
ライモンダ (主役の女の子 婚約者が十字軍出征から帰るのを待っている)
ジャン・ド・ブリエンヌ(騎士 ライモンダの婚約者、十字軍に出征)
シビル(女伯爵 ライモンダの叔母)
アンドレア2世(ハンガリー国王 十字軍の遠征で勝利して帰還してくる)
アブデラフマン(サラセン人の騎士 ライモンダに恋して略奪しようとする)
あらすじ
第1幕第1場 婚約者を待つライモンダ
ライモンダの叔母ドリスの城で、ライモンダは婚約者のジャン・ド・ブリエンヌが十字軍出征から帰ってくるのを待っています。叔母シビルは敬虔で宗教への信心深い人なので、陽気に過ごす若者たちをたしなめます。城の守護神として言い伝えられる、「白い貴婦人」が危険を知らせたり、悪いことをすると罰するのだとみんなに言って聞かせようとするも、みんな聞き入れていません。そんなことより、踊ったり気晴らしをして楽しんでいました。
そこへ、使者がやってきます。ジャン・ド・ブリエンヌからの手紙をライモンダが受け取ります。十字軍の遠征で勝利して帰ってきたことと、結婚するために明日彼がやってくることを知り、みんなで大喜び。城のみんなが祝宴の準備をし始めると、どこからかあの「白い貴婦人」がやってきました。不思議な魔法がかかったかのように、みんなは眠ってしまいます。ライモンダは、白の貴婦人についてきなさいと言われ、庭へと歩いていきます。
第1幕第2場 白い貴婦人と幻影の庭
ライモンダは意識がもうろうとしている中で、白い貴婦人の後をついて、庭のテラスに出ました。あたりは白い霧に包まれていて、幻影に包まれた婚約者ジャン・ド・ブリエンヌが現れました。ずっと会いたかったので、ライモンダは喜びますが、白い貴婦人は「あなたに待ち受けるものがすぐそこにせまっている」という守護神としての危険のサインを伝えます。ふと気づくと、婚約者であったはずが、アラビアンなサラセン人の騎士になっていました。彼はハンサムで、ライモンダに愛を告白してきます。拒んでいると、力で襲いかかってこようとするので、対抗しているうちにライモンダは気を失います。その途端、幻影と白い貴婦人はたちまち消えていったのでした。
第2幕 祝宴と決闘
城では、ライモンダが待ち焦がれていた恋人ジャン・ド・ブリエンヌの帰還を祝おうと、宴が始まりました。招かれた領主、騎士、貴婦人、吟遊詩人たちがやって来ます。でも、まだ肝心なジャン・ド・ブリエンヌが城にやって来ません。すると、サラセン人の騎士アブデラフマンが登場します。ライモンダが幻影で見た男とそっくりでした。白い貴婦人はこのことを暗示していたのでしょう。ライモンダは危険を感じて、追い出そうとしますが、叔母のシビルは祝いの席なのだからだれも追い返してはいけない、と言うのです。
ライモンダの美しさを聞きつけて、アラブからやってきたアブデラフマンは、どうにかライモンダを略奪しようとします。ライモンダは彼の魅力に惑わされながらも、拒み続けます。すると、ジャン・ド・ブリエンヌが到着して、国王アンドレア2世も一緒でした。そこで、国王の命令でジャンとアブデラフマンは決闘をし、ジャンが勝利。二人はようやく結婚の準備が整ったのです。
第3幕 結婚式
ライモンダとジャン・ド・ブリエンヌの結婚式が執り行われます。ディベルティスマンの踊りが民族情緒あふれて繰り広げられていきます。ライモンダはあどけない少女らしさから抜け出て、大人の女性として、そして若い女伯爵として、気高さが際立ちます。若い二人の結婚を祝福する空気いっぱいで物語が終わります。
見どころ
ライモンダの5つのヴァリエーション
ライモンダは、主役が全幕通してほとんど踊り通すような構成で、主役のバレリーナのヴァリエーションは5つもあります。音楽がピチカートでかわいらしかったり、ヴェールを持っていて絵になる踊りであったり、ラストは意外に重厚でかなりハンガリー調であったり、どれも個性的です。一人の女性としての、内面の成長物語として演じ分けるところも見どころです。
第1幕第1場 ピチカート
第1幕第1場 ヴェールのヴァリエーション
第1幕第2場 夢のヴァリエーション
第2幕 ヴァリエーション
第3幕 ヴァリエーション(グラン・パ・ド・ドゥ)
ほかに、ソリストの女性バリエーションの曲も多く、ソロの踊りの演目が可愛らしいメロディで、楽器ではハープや金管楽器など印象に残りやすい音色がふんだんに織り込まれています。
グラズノフの音楽
グラズノフが作曲したこれらの音楽は、全幕を通して優雅で壮大な曲が多く、一部を選んでバレエの小作品として踊られることも多いです。ライモンダの全幕が上演される機会は少ないですが、音楽表現が感情豊かで踊りごころを誘うため、発表会などの演目でも人気が高い音楽です。
フランス、ハンガリー、などの雰囲気が独特
物語の舞台はフランスのプロヴァンス地方、ということになっていますが、ハンガリー国王が登場するように、ハンガリーらしいような衣装・舞台美術で構成され、またアブデラフマンはサラセン出身とあり、異国情緒がたちこめる個性的な物語です。特に、ライモンダの第3幕のヴァリエーションはシンプルなテクニックですが、ハンガリーらしさの際立つ気高い印象の踊りで、立っているだけで存在感がある…というようなバレリーナのオーラが一層引き出されるような曲です。2011年のミラノ・スカラ座での版は、初演を再現した構成で、カラフルな民族衣装が可愛らしく、とても華やかです。