マリアノ・フォルチュニ 展にでかけたときのこと。伝説のプリーツドレス『デルフォス』にまつわる話を勉強しに行こうと出かけたところ、それと同じくらいに感動して意外な発見であったのが、劇場の照明デザイナーであったことです。
Teatro delle Feste, la cavea. Photo Credit Claudio Franzini per Fondazione Musei Civici di Venezia
オペラが大好きで、劇場を観ながら「自分だったらこうしたい」というセンスを形にしていくマルチな才能と感性の持ち主!!19世紀末から20世紀前半にかけてパリ、ウィーンなどを始めとしてさまざまな芸術家が活発に輝いていた時期、フォルチュニもまたそのダイナミズムに生きていたのだと感動してしまいました。
舞台照明というと、今ではさまざまな光が劇場の上や横やスポットライトから自在に操ることができ、コンピュータ制御までできる時代となりました。
フォルチュニの時代は、まだ電気式が浸透する前の頃。舞台転換に時間がかかり、何度も場面を転換させることはできません。朝、昼、晩という進行ならその三場面のみで途中に効果的な色の変化などはできなかったといいます。それでは、せっかくの舞台進行もリアリティが生まれません。そこで舞台の進行に合わせて滑らかな照明の転換、色の調整などができるようにしたことで、ヨーロッパ各地の劇場で採用されるようになっていきました。
Disegno dell'Album prima del restauro. Photo Credit Filigrana di Margherita Errera
フォルチュニの若い頃の劇場は、まだ電気式の照明ではなく、ろうそくがまだ主流の頃だったそうです。
ヨーロッパの各地の劇場で火災が起こりやすかったこともろうそくが一因でした。ふと倒れて引火してしまうのはとても危険ですよね。
キエフの劇場やフランスの劇場などでも火災の被害を被ったエピソードを散見します。貴重な昔の衣装、舞台装置、楽譜など失われた歴史の資産が数多くあるはずです。
フォルチュニは芸術家の一家に育ち、画家を目指すほどに芸術家肌で器用でした。若い頃にワーグナーのオペラを鑑賞して以来、すっかり心酔してワグネリアンと呼ばれるワーグナーファンの一人に。オペラの絵を描いていたほどです。
照明や舞台装置や衣装などがあまり発展していなかったため、オペラの舞台演出をもっと引き立たせたいーそう感じたフォルチュニは、劇場の照明だけでなく劇場設計、衣装デザイン、舞台美術まであらゆるところに取り組みます。
画家志望だからと絵の世界にとどまることなく、自分のもてる才能、環境、条件をフルに活用して形にしていき、あくなき探究心で研究し続けていたという姿に素敵だなぁと思いました。
デルフォスというプリーツのドレスも、ファッションの歴史ではとても重要なドレスだそうです。コルセットから女性を解放させて、女性らしい美しさを引き出し、絹の素材を生かした光沢感。特許も取っているようですが手作業の技術の熟練が必要なのか、いまや再現できないほど緻密で繊細な美しさを100年以上維持できています。コンパクトにたためて、機能美であることも素晴らしい点です。フォルチュニはさまざまなモノづくりにおいてのアイディアマンだったのですね。
【お知らせ/マリアノ・フォルチュニ展】
— 三菱一号館美術館 (@ichigokan_PR) August 16, 2019
本展覧会も中盤にさしかかってきました。8/19(月)の休館日に共立女子大学と島根県立石見美術館からお借りしているデルフォスが、展示替えとなります。こちらの美しいデルフォスの展示は今週末まで。ぜひお見逃しなく!#マリアノフォルチュニ展 pic.twitter.com/YG6MBhvIiR
遠目で見るとツヤツヤな質感がきらめき、近くで見るとプリーツの細かさに絶句します… どこにも見たことのない輝くプリーツ。しかも手作業から生まれる自然なゆらぎがまた美しい。
【マリアノ・フォルチュニ展】
— 三菱一号館美術館 (@ichigokan_PR) August 16, 2019
日本でも大ヒットの英国ドラマ「ダウントン・アビー」。本作の映画版がこの秋公開ですが、(日本公開は未定)デルフォスが登場するのをご存知でしょうか?ドレスの概念そのものに革命をもたらしたデルフォス。当時の錚々たる女性達が身に纏っていた様子が垣間見えます。 pic.twitter.com/Xit7hWcL7I
イタリアのフォルチュニの故郷には美術館が設けられ、その様子がまたこの世のものと思えないような美的空間。いつか訪れられたらいいなぁと思います。
https://en.wikipedia.org/wiki/Fortuny_Museum#/media/File:Palazzo_Fortuny,_gi%C3%A0_Pesaro_Orfei.jpg
フォルチュニは、ドレスのデザイン、劇場の照明だけでなく、テキスタイルの染織家でもあり、いち早く写真技術を活用した写真家でもあり、ウィリアム・シェイクスピアのオテロの衣装を考案したり、ほか舞台美術に関わるデザイン、たとえば、劇場の緞帳や設計デザインまで一言で語り尽くせぬほど才能を発揮した人です。
こちらはフォルチュニ のデザインしたシェヘラザードをイメージした照明ランプ。今でもこの形を購入することができるようですが、美しさは時代に色褪せないことがよくわかります。
マリアノ・フォルチュニ展は一部写真撮影可能なコーナーもあります。文献もあまり多くないので、数多くの実物資料が見られるのは貴重です。
フォルチュニについてはすっかり私がはまってしまったので、また書くかもしれません。