前のブログに続き、ベートーヴェンです。ベートーヴェンが変人のように見られていたというエピソードだけではごく一面にすぎないので、よりアットホームな人柄の面を紹介します。
こちらの第九の楽譜の冒頭に紹介されている話です。(ベートーヴェン 交響曲第9番 ニ短調 作品125〔合唱付〕 (Zen-On Score) )
ベートーヴェンの逸話は多様にあるのだと思いますが(真偽もさまざまかと)、人類愛を彼にもたらした私生活のエピソードのひとつとされているので取り上げます。
ベートーヴェンには2人の弟がいましたが、好き嫌いが激しく、特にかわいがっていた方の弟、カールがいました。
悲しいことにカールは若いうちに亡くなってしまい、幼い息子のカール(同じ名前)がいました。
自分の死後を心配して、兄のベートーヴェンに面倒をみてくれるよう頼んでいました。
ベートーヴェンからみると、弟の息子ですから甥っ子。
ベートーヴェンからすれば、かわいがっていた弟の息子ですから、よろこんで甥っ子カールを自分の子供のように思いながら、面倒を引き受けました。
しかし、甥っ子カールの母親は子どもの教育と成長に関心がないどころか、問題のある母親で、夫から残されたお金を使い込んで浪費してしまい借金をしてしまう始末。
ベートーヴェンは、甥っ子カールを実母には任せておけないと、責任感を感じてさらに自分が育てようと考えました。
変わり者扱いされていたベートーヴェンでも、実際には平穏な家庭愛に憧れていました。
独身でいましたが、家庭的な幸せを望んで結婚願望は昔から強かった人で、しかしながらうまく立ち行かなかったのです。その意味でも孤独と向き合っていた人なのでした。
ベートーヴェン自身は結婚できなかったけれども、子どもを育てたいという父性が彼に目覚めたことは、ベートーヴェンの芸術性にも影響を与えただろうという見方もあるようです。
自分以外の人間に愛を注ぎ、幸せを願いたくなるというのは、人生観に少なからず影響を与えそうですね。
ベートーヴェンが意気揚々と自分の子供のように面倒を見ようという意志は、手紙にも書き綴っていました。
ようやくつかみかけた家族愛のひとつの形…
ベートーヴェンは意気込んでいたのでしょうね。
それにもかかわらず、なんと甥っ子カールは、伯父のベートーヴェンよりも、母にすがろうとします。
問題のある母親とはいってもやはり実母です。血は争えないのでしょうか…。
そしてカールも問題を起こしてしまうようになり、ベートーヴェンを失意に陥らせてしまいました。
私は偉人の1人としてのベートーヴェン像は、勝手ながら、天才がゆえの孤独な人だったのかなとも思っていました。
しかし、こうしたエピソードを知ると、ベートーヴェンの境遇は不幸な生まれもあり、悲しい人生に同情してしまいたくもなります。
そんな生い立ちだったからこそ、音楽で表現したいというパッションが焚きつけられたのかもしれませんね。
個性的な性格ながらも、愛を人と分かち合いたいという想いの裏返しだったのでしょうか。
この口づけを全世界に!
それがクリムトの接吻にもつながっていきます。
今回の《星彩歌〜クリムトの歓喜》では、ベートーヴェンが特に想いを込めた「この口づけを、全世界に与えん!」の詩句を合唱に込めた第四楽章の終末部から踊りを作ります。
この音楽を聴きながらクリムトはどんな想いで《ベートーヴェン・フリーズ》を描いたのか。想いをめぐらせながらみなさんと踊りたいと思います。