バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ

バレエヨガインストラクター三科絵理

68歳の森下洋子さんが演じる白鳥&黒鳥の輝き

先日、松山バレエ団で上演された森下洋子さん主演の「新・白鳥の湖」を鑑賞しました。

森下洋子さんは日本のバレエ黎明期から、世界の舞台で踊り、ルドルフ・ヌレエフとも共演された偉大なバレリーナ。現在は68歳なのだそうです。

森下さんのように生涯現役を続けていらっしゃる方はとても少なく、他にパッと浮かぶのは、マイヤ・プリセツカヤさんでしょうか…。森下洋子さんは、白鳥と黒鳥をどちらも踊るということで、ぜひにと観劇に行きました。

昔に何度か森下さんの生舞台を観ていましたが、やはり現在も森下さんの上半身の表現の豊かさ、目の輝き、ポールドブラの美しさはより洗練されていたように思えました。

ポアントの動きはおそらく昔よりもシンプルにされていたようでしたが、それでも全身からほとばしる踊る喜び、楽しさはしっかりと放たれていて、周りのダンサーさん方も素敵でしたがやはり森下さんの存在感に目がいってしまいました。

実は子供の頃に物心ついて母と観にいった舞台が森下さんのシンデレラでした。幼いときでしたので、途中は寝てしまったらしく全部は覚えていないのですが、森下さんが踊りの中で座って客席を見上げながら目を輝かせていた姿だけは未だに覚えています。たしかそれが私自身の初舞台の前で、バレエってこういう世界なんだ…と幼心にまざまざと感じていました。

森下さんが世界に飛び立ち始めた時期というのは、今のように日本人ダンサーが世界各地にいるような状況ではなかったはずです。でも、森下さんの名は世界に広まり、英国のエリザベス女王戴冠25周年記念公演に招聘されたり、伝説的なプリマのマーゴ・フォンテーンなどとも共に活躍されたご経験をお持ちです。

マーゴ・フォンテーンも、ルドルフ・ヌレエフも、テクニックばかりに偏重するのではなく表現して舞うことの重要性を強調していたという逸話があるようですが、そうした精神が森下さんにも根付いていらしゃるように見えます。

大人になってバレエを始められた方も今は多くなりました。

何歳になってもバレエを楽しみたいと願うものですが、現に68歳で白鳥も黒鳥も演じきってしまう森下さん。

白鳥(オデット)では、手の指先まですべてが軽やかで、王子のサポートも丁寧なのが相まって、より儚く見えました。

黒鳥(オディール)では、登場はガラッと別人になって出てくる…というよりも静かに控えめな印象に見えました。踊り始めると、明るくて華やかな印象が増していき、その勢いが頂点に達したとき王子はすっかり魅了され尽くしていて、オディールの裏切った笑顔が冷酷に表れてさらに印象に残りました。その後のオデットはさらに儚く見えたのはいうまでもありません。

今回の「新・白鳥の湖」と名付けられているように、松山バレエ団の演出・振付は独自の改訂がなされており、舞台美術や装飾も独特です。白鳥の湖とは場面の進行・見せ場もかなり違いますが、森下さんの踊る姿からエネルギーをいただけたことで満たされた気持ちになりました。

68歳でも舞台に立ち続けるというのは、本当に並大抵ではない努力と思います。気になる方は次の舞台に足を運んでみてくださいね。