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ロンドンでロイヤルバレエ鑑賞記(4)白鳥の湖リアム・スカーレット版

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英国ロイヤル・オペラ・ハウスでのバレエ鑑賞記4 今回は、バレエ鑑賞(リアム・スカーレット版白鳥の湖)についてです。

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ロイヤル・オペラ・ハウスのバックステージツアー、プレ・ステージ・ダイニングを経て、今回の旅の目的であるバレエ公演鑑賞がついにやってきました。

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バレエといえば、「白鳥の湖」は誰でも知っている名作です。

でもロイヤル・バレエだからこそ大切なポイントがあります!

2018年新鋭振付家によって新改訂された大人気の演出版を、ロンドンの豪華な劇場と舞台美術とともに鑑賞できるということです!

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そもそも白鳥の湖が初演されたのは1877年で、143年も前です。当時は劇場の構造も今のIT技術がない時代に行われていましたが、バレエの内容も劇場(箱)もずいぶんと進化しました。

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(ロイヤル・オペラ・ハウスも歴史が長く、再建され1858年当時の絵)

いわゆる今のバレエの形式(グラン・パ・ド・ドゥの構成や、幕構成などのロシア・バレエらしさを成す要素)の大きな枠組みが完成する前に、白鳥の湖が初演されていたのでバレエ作品群の中でもやや古い方になります。

ロシアでライジンガーという振付家が初演を手掛けてからしばらくブランクがあき、プティパとイワノフという振付家が手直しをして蘇演をしてから、今に残る白鳥の湖らしい構成が出来ました。それからは、ロシアだけでなくヨーロッパやアメリカなど世界中で上演されるようになり、日本でもここまで浸透するほど世界中に愛されています。

とはいえ、舞台ごと全く同じように行うものではなく、バレエの振付や衣装や背景などもバレエ団ごとに作り替えたり、あらすじの設定をアレンジされています。

ロイヤル・バレエでは、振付家アンソニー・ダウエル版の演出が長年人気を博していたので、31年も続けられておりました。

芸術監督がケヴィン・オヘアさんになって新演出が加えられ、大抜擢されたのがリアム・スカーレットさんという当時31歳の振付家です。この新演出がクラシックの良さを残しながらも見る人を飽きさせないスタイリッシュさがあり、劇場でだけでなくシネマ・ライブビューイングなどでも世界中から人気を集めているのです。

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舞台美術も衣装も大幅に変更されていて、個人的にはお伽話とはいえファンタジーになりすぎないリアリティを感じる印象を持ちました。それが古典を現代に生かすというのことなのだと思います。衣装のデザインは約370着にのぼるそうです。一着ごとに洗練されたデザインで、大変細やかな製作が見られました。

また、女性のソリストとして「王子の妹二人」という設定が加えられており、白鳥以外のバレリーナのみどころを効果的に設けているのが特徴です。

もう少し追って詳しく書きます。

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(敬称略)

演出振付 リアム・スカーレット(マリウス・プティパ、レフ・イワノフ版をもとに)
追加振付 フレデリック・アシュトン
衣装デザイン ジョン・マクファーレン

オデット/オディール 高田茜
ジークフリード王子 フェデリコ・ボネッリ
クイーン(王子の母) クリスティーン・マクナリー
ロットバルト トーマス・ホワイトヘッド
ベンノ(王子の友人) ジェームズ・ヘイ
王子の妹 アンナ・ローズ・オサリバン、チェ・ユヒ

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上演時間

開演 19:30
第1幕 35分
第2幕 30分
休憩 25分
第3幕 40分
休憩 20分
第4幕 25分
終演予定時刻 22:30

英国の王室を想像させるような舞台美術

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(舞台美術デザインのポストカード)

第一幕の幕開け、舞台背景を見て「これは空想ではなく実際の世界かもしれない」と第一印象でピンとくるものを感じました。

それは、舞台背景となっていた絵なのですが、個人的な視点ではとてもイギリスらしさを感じました。

よくある一般的なものはお伽話のお城、しかも森の中にそびえるファンタジーなイメージなのですが、ここで感じたものは違いました。

どちらかというと、英国王室関係の建築にありそうな背景。ロンドンで散歩しながら見るような宮殿の門構えのスタイルに似ているなぁ…と。

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そもそも白鳥の湖は物語の原点はドイツにあると考えられていますが、ともするとメルヘンなタッチになりがちです。

伝統を踏襲するといっても、メルヘンになりすぎると現代人の感覚にはギャップがありすぎてしまいますが、ロイヤル・バレエのこの演出は「現代にあわせて磨き直した」という姿勢をこの一瞬で感じ取りました。

古典作品に対して、いかにリアリティをもたらすか。

これが見る人を惹きつけるための要だと思いますし、演出意図もそこにあったようです。

白鳥の湖に限らず、こうした古典の新版の世界観を描き直すセンスが絶妙で、私も大好きですし多くの人に受け入れられやすい理由が秘められていると思われます。

高田茜さんとフェデリコ・ボネッリさんの熱演

白鳥と黒鳥の主演は、高田茜さんでした。日本人を代表する世界的なプリマ・バレリーナ。この素晴らしいロイヤル・バレエの頂点で踊る高田茜さんは本当に超絶的な演技を披露されました。儚い白鳥の様子がまさにぴったり。ほろほろと悲しみにあけくれている姿も、王子との出会いに愛を感じる様も、真の白鳥でした。そして、黒鳥になった途端の別人のような強さと妖艶さが見事に観るものを(ある意味)裏切られるほどに演じ分けも素晴らしいです。テクニックの安定感もずば抜けておられ、日本人としてますますこれからも応援させていただきたい気持ちでいっぱいです。

フェデリコ・ボネッリさんもロイヤルを代表するベテラン主演ダンサーさんで、昔から日本でも鑑賞する機会があり好きなダンサーさんです。包容力があり甘いやさしさをもつ王子で、高田茜さんとの息もバッチリあっていました。拝見していると、どこか控えめな佇まいのように見えて(あまり前に前に押し出してくるような方ではなく、むしろ全体に溶け込む印象)、それでいてもひとたび舞台に現れると、たくさんのダンサーたちに囲まれ“舞台が締まる”エレガントな王子の代表的な方です。

団員さんのレベルが高いうえに国際色豊かなバレエ団。その中でしのぎを削って頂点に立ち続けておられるのは並大抵のことではありません。

とはいっても、輝いているのは主役のダンサーだけではありません。舞台の隅々までロイヤル・バレエのDNAを受け継いでいる全てのダンサーさんが素晴らしいのです。

モダンな衣装デザイン(特に第1・3幕)

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幕開けの背景と同時に、王子、クイーン、王子の妹、などの人物を包む装いがクラシカルでいながらもスタイリッシュだとインパクトを受けました。古くささはありません。

上の画像は、衣装デザイン画のポストカードです。

舞台衣装とのバランスを図るために主張しすぎない色彩調和。これは第三幕でも同じく。王子の花嫁候補となった各国の女性たちも、コントラストが効いた配色になっていたり、ファッション性の高い衣装で、とはいえクラシックバレエの枠組みを壊さないところ。衣装も表現なのだと改めて感じます。

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幕開けでダンサーの踊りなども目がいくものですが、そもそもの舞台制作の意図は衣装や背景などにも込められるものです。

デザイナー ジョン・マクファーレンさんを起用しているロイヤル・バレエの凄みだと思います。

王子の妹役の女性ソリストが見所をふやす

王子の妹役という2人の女性ソリストが新たに設定されています。

よく一般的なあらすじでは、第一幕に王子の友人という設定で男女3人(女性2人)が場面の華やかさを添えていますが、主にこの踊り以外ではあまり引き立つことがありません。

でも、王子の妹という家族の立場を設けることで、王子の母(クイーン)と兄妹という人間関係を感じさせ、そこに結婚という人生の大事なイベントを囲むというのは自然な流れに感じさせます。

そして主役のバレリーナ以外(鳥のキャラクター以外)に、人間の美しい女性という設定できらびやかな舞が見どころに増えるのは興味深いポイントです。

カーテンコールでも登場され、主役級に次ぐ着目を集めていました。

湖のほとりは動く絵画を見ているような視覚の一体感

コールドバレエの完成度も息をのむ美しさ。舞台背景と照明デザインのクオリティも素晴らしく、ダンサーたちが浮かびすぎず、絵もリアリティがあるような見え方になっていて、舞台全体の統一感とまとまりが格別に素晴らしいと感じました。

実はロイヤル・バレエ団の来日公演のときにも、舞台装置・美術と照明の全体的なデザインの良さに大変惹かれていました。ダンサーの引き立て方が一層上質に見えるのです。(ドン・キホーテ ほか 別の作品で鑑賞しました)

現地の劇場で、しかもバレエといえば絶対に手を抜くことのできない十八番の白鳥の湖での統一感はうっとりしてしまいます…。

一糸乱れぬ群舞の白鳥や、ソリストのメリッサ・ハミルトンさんのずば抜けた存在感も見ることができ、眼福この上ない時間を過ごせました。

終幕では「ああ、もう終わってしまう…」と切なくなるほど、あっという間に感じました…。

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何度もいろんなバレエ団で観ている「白鳥の湖」ですが、それぞれ特色や魅力が幅広く異なり、瞬間の中に価値を感じられる芸術は本当に好きだなぁと思います…。

全体を通して、リアリティある白鳥の湖で、バレエをあまりみたことがない方にも見てみていただきたいなぁと思うドラマティックバレエでした。

終演後、通路が混んでいたので席で少し待っていたところに、後ろのお席の方がお連れ様とご一緒に写真を撮りたかったそうで、シャッターを頼まれ、私たちも撮ってくださいました。

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とてもゴージャスな(日本ではめったにお目にかかれないデコルテの大きく開いた、しかもロングでトレーンをひくようなブラックドレス)お召し物で素敵だなぁと思っていましたら、やはり素晴らしいお仕事をしていらっしゃる方でした。劇場は昔から社交場の役目もありましたが、現代でもこのような出会いがありうれしかったです。

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ちなみにバレエカメラマンとして活動している夫は、普段撮影しているのがロシア・バレエスタイルの様式が多いのですが、ロイヤル・バレエの踊り方になると、写真の切り取り方が変わるなぁというのを感じたそうです。それはたしかにそうで、踊り方やポーズの見せ方が英国スタイルとロシアスタイルは違うので、ふむふむと共感しながら話しました。

劇場のロビーは真紅のフカフカの絨毯で、重厚な佇まいです。絨毯が厚いことで、足音も目立たないというのもメリットになっていることでしょう。(係員さん方はかなり気を配って足音を立てないようにするものです)みなさんももし訪れたときには、ロイヤル・オペラ・ハウスの内装もじっくりご覧になってみてください。

もっとみたい気持ちもありつつも、満足感は120%!ああ、本当に来られてよかった… 余韻たっぷりの幸せな気持ちで、ホテルに戻りました。

いつか観に行きたいという方、現地ももちろんですが、ディスクでも購入ができます。

おうち時間にDVDやBlu-rayでもご覧になってみてはいかがでしょうか。

ここまで、4本にわたってロイヤル・オペラ・ハウス ロイヤル・バレエ団 鑑賞の記録をご紹介しました!

すでに、楽しく読んでくださったご感想をいただいております。

読んでくださりありがとうございます!

まだフランスのパリ・オペラ座、そして周辺観光、移動手段などもご紹介していきます。あわせて読んでいただけたら幸いです。

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