マイヤ・プリセツカヤさんは何人もの大きなハイブランドのデザイナーと交流がありましたが、その中にガブリエル・シャネル(ココ・シャネル)もいました。
1961年10月にパリ公演で白鳥の湖を披露しに行ったときのこと。さまざまな人と出会いがあった中で、80歳のシャネルから最新秋冬シーズンのショーをプライベートに見せてもらい、シャネルお薦めの白いスーツを贈られたことを自伝 闘う白鳥―マイヤ・プリセツカヤ自伝 に書いています。
「マイヤ、気に入った服をお選びになってね。どれでも好きなものを差し上げるわ」
わたしは決めかねて考えあぐねる。
「それでは、私が選んで差し上げるわ。ジャケットが着ている白いスーツがいいわ。さあ、もうあなたのものよ」
シャネルのプレゼントは今も私のクローゼットに入っていて、晴れやかな祝い事のときに着ている。驚くべきことに、生地もデザインもいまだに充分ファッショナブル。まさに奇跡だ! しっかりと縫い合わされた白い絹地、ジャケットの肩から胸にかけて縫い込まれた濃紺の細い飾り紐。軍服についている小さな勲章のような金ボタンが白地に映える。ジャケットの下はぴったりしたつなぎのスカート。体の線を引き立たせてくれる。
1961年の白いスーツという情報を頼りに、時期の近いシャネルスーツを探してみたところ、例えば画像のような感じ。今年のシャネル展にあった作品です。
(2022年ガブリエル・シャネル展図録より)
マイヤさんはそれを着てテレビ出演もしたことがあるのだそうですが、着用画像はまだ見つけられず…。
Three French Couturiers for Maya Plisetskaya's Wardrobe
シャネル自身もこの時期は白いスーツを好んで着ていたようです。
シャネルというと黒のイメージもありますが、白地だからこそアクセントになる黒のかっこよさがありますね。
マイヤさんは直接シャネルと会えるなんてうれしかったようです!
モデルが一生懸命に動きを見せていたところにシャネルが説教をして自ら動きを見せた時のことをマイヤさんはこう振り返っています。
「背中をもっと優雅に屈めて。肩を前に突き出して。骨盤も前に。歩幅は小さめに……」 ココが手本を示す。魔法か奇跡でも見ているかのようだ。そのエレガントで清楚な動作を見ていると、そこにいる女主人は二十歳そこそこの娘にしか見えない。
そんなシャネルの歩き方を見た後に、スーツを着てマイヤさんが真似して歩くと、シャネルはとても喜んだようです。
「あなたは偉大なバレリーナだとセルジュが言っていたけれど、本当だわ。私のブティックを手伝ってくださらない?」
わたしが風変わりなテストに合格したもので、リファールは有頂天だ。
出会うきっかけを作ってくれたのは、大ファンになってくれたバレエ・リュスのダンサーでもあった振付家セルジュ・リファール。
パリの公演をよく見に来て絶賛してくれた彼が、プレゼントの代わりにとシャネルを紹介してくれたのだそう。白鳥の湖の白の場面が終わった後に楽屋で着替えようとしているマイヤさんに駆けつけてしまい、出番が近づく中ノックせず入り込んだリファールが話しかけ続けてきて困った…という日があったくらいに気に入ってくれていたそうです。(本番中につかまるのはバレリーナにはとっても困りますね。笑)
セルジュ・リファールはニジンスカ(ニジンスキーの妹)の弟子で、第二のニジンスキーと呼ばれていたダンサーです。振付家としても功績があり、マイヤさんも尊敬しておられた方です。
そんな人物の紹介だからこそシャネルも信頼して会ったのでしょう。
シャネルはプレゼントしたスーツを早速着こなして歩くマイヤさんを見て、とても気に入り、有名なあの自宅の2階に案内したのだそうです。
マイヤさんが見たものは、博物館並みの貴重な宝石や骨董品など。
元恋人のロシア皇帝ニコライ2世の従兄弟ドミートリー・パヴロヴィチ太公から贈られたエメラルドや、マリー・アントワネット愛用のルビー。女性の爪ほどもある大きさの大粒のものばかり…
家具から屏風からルネサンス時代のゴブラン織りにいたるまで、希少価値の高いものばかり。そんな宝物のコレクションを見せてくれたというのは、心を開いてくれたように感じてしまいそうです。
マイヤさんの日記にはシャネルと出会った日のことまであるとは… さすが偉人の交友関係は興味深いですね。
いつごろのシャネルスーツかなあと探してみると、1961年前後は白いスーツの写真が多い。
— Ballet Yoga 🎀 ERI 三科絵理 (@mishina_eri) 2022年9月28日
本人も着ているし、シャネル展にも展示があった✨
マイヤさんも素敵に着こなしておられたのだろうな💕 pic.twitter.com/VC8I0AFqg6