とてもエネルギッシュな女性、アイリス・アプフェルという人を知っていますか。現役実業家・ファッショニスタ。
彼女のあふれんばかりのエネルギーに満ちたドキュメンタリー映画をみて、好きなことに心身打ち込んで生きることに感動しました!
ビジネスが成功しているだけでなく、心が豊かで愛のある女性。
『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』
アイリスの言葉はいつもまっすぐで、夢に満ちています。
「みんな同じような服ばかり着ていたら面白くない」
「暗く生きていないで人を笑顔にしたい」
「平穏に生きたいという人にも刺激は必要なの」
しかも、彼女の周りの人たちもとても幸せそうなオーラが伝わっている。それがまた素敵なのです。
90代になってもいまだにバリバリ現役の実業家。
しかも、ファッションアイコン「ケイト・スペード」のモデル、「M・A・C」のミューズを務めたりしています。
90代の彼女が、若い女性向けのブランドや雑誌にもひっぱりだこ。
彼女のセンスはたくさんの人に尊敬され、著名人との親交も厚い。
その理由が知りたくて、映画をみたのです。
仕事のことをまず紹介すると、アイリスはインテリアデザインで長年活躍していた女性です。
テキスタイル会社を立ち上げ、17世紀〜20世紀初頭の古い布地のデザインを蘇らせるために、最大限に再現していました。テキスタイルが大人気となり会社は成功、ついには売却。
装飾では、歴代のアメリカ大統領のホワイトハウスのインテリアを任されていたというほど。トルーマンや、ケネディなどの頃も。ホワイトハウスの装飾の復元や、特注品を請け負っていました。
やはりそうした顧客だと、「人と同じものは嫌」なわけで、誰とも違うインテリアにするには、装飾品もこだわらなければならない。
そこで、アイリスと夫カールは年に2度世界を旅して、顧客のためにオリジナルな物を買い付けに行っていました。
買い付けとしてもプロで、値引き交渉にも美学を持っている。なんでも買い集めるのではない。「発掘」は大変なんだ、と言っていました。
それで、インテリアの仕事に成功していたわけですが、アイリスはファッショニスタでもあります。
もともとファッションやコスチュームデザインが大好き。
彼女のセンスで洋服・アクセサリーも膨大なコレクションを持っています。
全部、彼女が好きで買ったもので何度も着ているものばかりですが、美術館に寄贈できるほど価値あるものなのです。
まだファッション業界ではあまり知名度の高くなかったアイリスでしたが、アメリカでは1・2位を争う、知る人ぞ知るコレクターであったのです。
そして2005年、友人からの急な依頼でメトロポリタン美術館で彼女のコレクションを企画展に出す誘いが舞い込んできます。
ファッション業界では知名度がまだ低かったにもかかわらず、口コミだけで驚異的な動員数を記録!前代未聞の成功を遂げる。
「80代の新人」
それからは、インテリアデザインだけでなくファッションの業界でも大人気のアイコンとなりました。
それでさらに心惹かれたのは、彼女が歴史観を大切にしているということです。
ファッションには、その時代の世情が現れる。だから、昔のファッションでもそれをみればその時代がわかる、というほどに精通している。
しかも、ファッションだけではない。あらゆる分野とすべてはつながりあっているのだということ。
「アイリスはさまざまな分野の交差点に立っているの。ファッションとインテリアデザインとアートのね」と言われていました。
テキサス大学でも若い学生たちへの教鞭をとっています。
業界で生き抜くための歴史を学ぶ場を提供しています。手作りのものがどんどん消えてしまっている現代に、世情を知ってもらうことが急務だと感じたから始めたといいます。
彼女の豊富な人脈の若手デザイナーや経営者たちを講師に招いていて希少な選抜制の人気講座なのだそうです。
映画中、夫のカールは100歳の誕生日を迎えていました。
残念なことに、撮影後に亡くなられたそうです。
若くから一緒に仕事をしてきた二人は、映画中でも本当に愛し合ってるのが伝わってきました。車で移動中も手をつないでいて、カールはアイリスと会えないと寂しがっていました。
世界中を一緒に旅して必死に仕事して、彼女の姿を写真におさめたくて、3台のカメラを常に持ち歩いていたというカール。
「美しい旅のような人生だった」
「妻は次に何をするかわからない。だから飽きたことはないよ」
と笑顔で語っていた姿が心に残ります。
アイリスはとても派手なファッションに見えるけれど、それはとても表面的な見方で、
人生のときめき、感性、感動、愛情、一つ一つの物が持つ歴史と尊敬の念があるからこそ、アイリスのスタイルがある!と感動しました。
今はファストファッションで機械製のものばかりがあふれ、昔の手仕事で作られた価値のあるもの、美しいものがどんどんなくなっていく。生産されず歴史が消えていくことに危機を感じているから、自分が時代を変えるんだと。実際に、テキサス大学で若い世代に教育したり、ピーボディ・エセックス博物館に希少な近代のファッション・コレクションを寄贈したりして、行動に変えている。そこにも、とても共感しました。
人生は一度きりなのだから、楽しまなくっちゃ。
そんな気持ちがたくさん湧いてくるのです。
とはいえ、アイリスも94歳。体にも負担がかかりやすい年齢でありながら、周囲が心配するほどに休みなく動き続けてしまうそう。重病でないのなら年を取っても外へ出るべきよ、という強さがまたかっこいい。それでも体には気をつけてもっと活躍してほしいと願います。
ちなみに、他の人のスタイルは批判しないことも彼女の姿勢。
その理由は、スタイルはどうであったとしてもその人が幸せであることが一番だから、なんだそう。まさにその通りですね。そこが辛口批評家とは違うアイリスの人柄なんだと思う。
人生、楽しまなくっちゃ!アイリスとカールに敬意を込めて。
P.S. こちらの映画監督「ドキュメンタリーの祖」アルバート・メイスルズ監督も、2015年に88歳で逝去されたそうです。映画中にもたまに出ていらしていましたが、自らビデオを持って撮影していました。この映画が製作されなかったらアイリスのことも知る機会がなかったかもしれません。感謝を込めて。
映画の予告編