青列車のバレエをDVDで見た感想をご紹介します。※前のブログの続きです。ガブリエル・シャネルがデザインしたバレエ作品とその背景 - バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ
青列車とは、ジャン・コクトー台本、舞台緞帳パブロ・ピカソ、ガブリエル・シャネルが衣装を担当したバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の時代の作品です。振付はニジンスキーの妹ニジンスカでした。
写真から見てもモダンなポーズと衣装ですよね!ヘアスタイルも注目。男性はなでつけた髪、女性は耳元にくるんとカール。
1993年にパリ・オペラ座が再現した公演での映像を観ました。初演時とは少し違うところもあるらしいですが、雰囲気はよくわかります。バレエの中ではあまり有名ではないニッチな作品ですが、この制作に関わっている芸術家たちが面白いところです。
青列車はストーリーのない作品なので言葉にするのが難しいのですが、「生で見て動くアヴァンギャルドな舞台」というのが私の視点としてはしっくりきました。
最初の雑感から言うと、初演から約100年になる当時の前衛的なバレエ が「そこまで古く感じなかった」というのが素直な感覚です。
なぜかと言うと、未だに前衛的なスタイルであり、クラシックバレエの古典作品よりもモダンなので、100年くらい前の作品ですがそんなに古くも感じなかったのだと思います。
クラシックバレエ作品は200年くらい前の作品も多いですので、当然といえば当然です。
振付はお洒落な若者たちを想起させるモダンな動きが多いです。
スポーティーさを表現するためか、男性は手のひらをグーにして力強さを出していたり、女性は脚線美の光るポーズが多くて、チャーミング。美青年の役のニコラ・ル・リッシュ、さすがオーラが半端ないです。
女性たちは帽子にイヤリングと横顔をくるんとした髪がスタイリッシュで、水着のような姿や、テニスのプリーツのようなボトムスを履いていたりします。
そして、ゴルフプレーヤーはパターを、テニスプレーヤーはラケットを持って踊るところもあります。
チラシが振ってきたり、コダックのカメラで写真を撮っているシーンが出てきたり、当時らしいアメリカ的、あるいはバカンスの印象はこうだったんだなぁとイメージできます。
もし現代に置き換えてバカンスといったら…スーツケース引いて飛行機に乗り、サングラスに派手な服などを着そうなものですが、1920年ごろなりの視点でタイムスリップしたような気持ちになりました。
この青列車は当時の人気女性テニスプレーヤーと、ゴルフプレーヤーで英国皇太子の実在した人物を題材にしています。今ならどのセレブを題材にするでしょうか?という感じですね。
ディアギレフは「これはバレエというよりもオペレッタ・ダンスだ」と言ったそうです。
たしかにバレエの緻密で巧妙な技術の見せ場というより、演劇のような雰囲気もあり、コールドバレエもあるけれどクラシックではない。
パドドゥのように組むシーンもありますが、そんなに長い時間組むわけではありません。
男女という構図で恋愛の可能性も匂わせつつ、ストーリーはありません。
もしこれにストーリーがあったなら、もう少し感情移入しやすい作品になっていたかもしれないとも思います。
ジャンコクトー、パブロピカソ、ガブリエルシャネルという当時の前衛的なキーパーソンたちを融合させていたというのがバレエの舞台であったということに、かっこよさを感じます。
ピカソはこの作品でドロップ・カーテン(緞帳)の原画を描きました。
大胆で伸び伸びとした躍動感にあふれる絵だなぁと私は感じます。
青列車(Le Train Bleu)は、1922年から運行された北フランスのカレー、パリと南フランスのコート・ダジュール(リヴィエラ)地方を結んでいた夜行列車のことです。アガサ・クリスティーも推理小説「青列車の秘密(The Mystery of the Blue Train)」で題材にしています。
当時の青列車といえば、旅行への憧れの象徴でした。
幻の高級な夜行列車というのは、ロマンティックな世界ですよね。
いろいろと青列車について調べていると、シャネルの公式サイトでも次のような紹介を見つけました。デザインに関してガブリエル・シャネル本人はこう考えていたようです。
当時彼女が抱いていたファッションへのヴィジョンと共鳴するこの前衛的なバレエのために、スポーティーなジャージー素材の衣装を作り上げます。この作品の制作に携わった芸術家たちは、マドモアゼル シャネルの生涯の親友であり、信頼できる協力者でした。
衣装デザインを手がけたマドモアゼル シャネルは、当時彼女が抱いていたファッションへのヴィジョンと共鳴するこの前衛的なバレエのために、スポーティーなジャージー素材の衣装を作り上げます。この作品の制作に携わった芸術家たちは、マドモアゼル シャネルの生涯の親友であり、信頼できる協力者でした。「自らの作品を芸術と考えるようにマドモアゼル シャネルを導いたのは、こうした芸術家たちです。さらにまた、彼女がファッションからスタイルへと概念を転換するきっかけを与えることにもなりました」と、ジャン=ルイ フロマンは力強く語ります。彼女のこうした思考の変化により、現代的でありながら時代を超越している、という言葉が導き出され、それは、マドモアゼル シャネルとカール ラガーフェルドがデザインした数々の作品にも見事に立証されています。
なるほど。女性の洋服の在り方を変えて、今や一着一着が美術館の展示になるほど言葉通りの芸術となっているシャネルのドレスたち。
シャネルが「自らの作品を芸術と考える」きっかけになったというのが本当なら、興味深い一説だなと思いました。
単に日常の必需品のような、消耗品のような洋服というカテゴリーから、芸術品であると考えるようになるというのは、とても意味のあることだと思うからです。
社会の基盤が変化し、女性の社会進出が増していった時代背景を思うと、シャネルがバレエから感性的にも刺激を受けるのは自然な流れだろうという気もします。
多感で意欲的な芸術家たちの融合の場がバレエ・リュスであった…というのは、文化史的に見ても憧れてしまうロマンあふれる歴史ですね。