バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ

バレエヨガインストラクター三科絵理

脚が開かない人が「カエル足」のストレッチをやる前に考えておきたいこと

みなさんは、このストレッチをやったことがありますか?

バレエをやっている人ならば、よく見かけるポーズだと思います。

バレエは、股関節を外旋させる「ターン・アウト」(フランス語ではアンドゥオール)が基本の姿勢で、脚をできるだけ外側に外旋をさせます。

股関節にジョイントされている大腿骨の頸部(上の部分)が外側に回旋されて、つま先が外側を向くようになります。

外旋ができれば、足を1番ポジションで横に開き、プリエをするとひざとつま先が横を向くようになります。

だから、足をうまくターン・アウトできていないと、内ももや股関節周りの筋肉の柔軟性を高めるためにストレッチをするわけです。

その一貫で、「カエル足」というポーズをすることがあります。

このカエル足ですが、初心者の人や、バレエを大人から始めて股関節がうまく開けない人は、気をつけないといけないことがあります。

それは、カエル足になって骨盤や足を上から押されると、骨盤や膝関節・足関節に無理な負担が大きいということです。

でも、実際にはそうやってストレッチしたことがある人は多いでしょう。

というのも、このカエル足で力づくで床に押し付ける方法は、バレエの先生でも賛否両論だからです。

結論から言うと、私は先天的に股関節の可動域が確保されている人でない場合は押し付けてストレッチするのはやらない方が良いと考えています

バレエの動きについては今もまだ研究が進んでいる分野です。

私自身、たくさん開きたくて自分の体を使って考えたり、ヨガ解剖学なども通して考えてきた結果、今は「やらない方が安全だ」と判断しています。

関節は一度損傷したら前の状態に完璧に戻ることができないからです。リスキーな方法をとるよりも、安全な方法をとることがインストラクターとして大切だと思っています。

カエル足とアンドゥオールの違い

昔はよくこの方法で指導されたことが多いようです。私も経験があります。仰向けでやる場合もありますが、私が懸念するのはうつぶせで他人が押し付ける方法のことです。

海外のバレエ学校でも、このポーズでストレッチさせているという話もあります。

でも、注意したいのは、海外のバレエ学校の生徒は、生まれつき股関節の可動域が広い人です。

誰でも入学できるわけではありません。親や祖父母の代まで遡って骨格を調査してバレエの動きに耐えうる骨格かを調べて入学させている…という学校もあるくらいです。

つまり、もともと股関節がパカーンと横に開けて、関節に危険なストレスがないのならば、カエル足をしても怪我は少ないでしょう。

でも、骨盤が床につけられない人や足が大きく浮いてしまう人の方が、統計的に見れば圧倒的に多数です。

股関節の外旋できる角度は、真横を向けたいと思うと片脚で90度(両脚で180度)に開きたくなりますが、どんなにもともと恵まれた骨格のダンサーでも、片脚で60〜70度までであることがいろんな研究で調査されています。

私自身は計ったことはありませんが、たぶん60度代あたりなのだと思います。

ダンサーが180度に開いているようにみえるのは、股関節だけでなく、脚全体の筋肉を働かせて外旋の補助をしているからです。

つまり、股関節だけで左右のターンアウト180度を目指そうとは思わない方が適切です。バレエでは1番で立ったり、プリエをしたりして、膝関節や足関節にいたるまで総動員してアンドゥオールをしています。

カエル足は、アンドゥオールそのものではないのです。

股関節の個人差

股関節の骨の構造によって決まる可動域は、個人差が大きいです。

なぜ、個人差が生まれるのでしょうか?

筋肉の柔軟性だけでなく、もともと生まれ持った関節の形状と靭帯の硬さが関係してくるからです。

股関節の外旋可動域を先天的に影響させる要素

股関節の凸側になる大腿骨の頚部の角度・形

股関節の凹側になる骨盤のくぼみの形・位置

股関節を保護するY靭帯の硬さ

股関節は「臼状関節」

股関節は、その形から臼状関節に分類されます。

骨盤の凹みが臼(うす)のような形をしていて、凸の大腿骨は丸いボールのような形をしているからです。

その凹凸が合わさって可動域が決まるわけですが、凹凸のパーツの形や角度は生まれつき個人差があるので、動かせる自由度も変わります。

だから股関節の可動域にも個人差があるのです。

骨格の可動域を前提とした上で筋肉の柔軟性が影響する

股関節が生まれつきどんな状態になっているか?という条件がある上で、さらに内転筋・ハムストリングス・恥骨筋・大殿筋などの柔軟性が開脚できる角度を決めています。

骨格は変えることができませんので、私たちができることは、筋肉の柔軟性を高めることなのです。

10歳くらいまでのバレエのトレーニングで股関節が変わる?

これはどの程度真実なのかわかりませんが、子どもは体が成長しながらバレエに適応することもありえるそうです。

赤ちゃんの股関節はとても柔軟ですが、それはまだ歩き始めていないからです。成長して骨格が固まり重力に対応して股関節は硬くなります。

10歳くらいまでだと、バレエのレッスンをして多少大腿骨頭の形が変わるのではないかという説もあるようです。

私はどうだったのかわかりませんが…。

カエル足で開けない人を押し付けるどうなるか

カエル足のストレッチに話を戻します。

たまに、完全に骨盤と膝と足首が床につく人もいます。でも、かなりレアです。海外のバレエ学校はそれほど稀な可動域の人を中心に指導しています。

私は股関節・膝を床につけると、足首は2〜3センチ床から浮きます。特にトレーニングしていない人は、もっと10センチ以上つかないことも普通です。

何も押さないで骨格的に完全なカエル足になることはなかなかありません。

その状態で、体重や他人の手を使って力で押すということは、臼状関節の正しい動きとは違う、無理な方向に圧力がかかります

どの関節も潤滑させる働きを持つ関節包があります。また、股関節は体内で一番強い靭帯であるY靭帯もあります。股関節唇という軟骨もあります。

もし傷ついてしまったら。いったん傷つくと、関節も靭帯も損傷が残ります。歩けなくなったら、バレエどころではありません。

まさか…と思うかもしれませんが、カエル足で他人が押し付けるのは、それほど無理な力をかけている可能性があるのです。

自分の筋肉で動かせるものならば多少コントロールと自制が効きますが、他人の力は関係なくかかってしまいます。

正しいストレッチとの違い

単に筋肉を伸ばすストレッチと、開かない股関節でカエル足を押し付けるのは何が違うか?

筋肉を正常な方向に伸ばすストレッチは、関節の形に合った動き方をしますので、筋肉が引き伸ばされても正常な範囲ならば適切になります。

(もちろん過度に伸ばせば、筋肉も断裂しますが…)

開かない人にカエル足で押し付けるのは、股関節の形にそぐわない力で関節にストレスを与えます。それが私の懸念することです。

関節の形からして弱い方向に圧力がかかると、どんな関節も脆くなります。

膝であれば、上からの力は耐えやすい(膝を曲げて緩和できる)のですが、横から押される力にはとても弱いです。

プリエでひざをねじらないように注意するのは、そのためです。ひざが内に入るとねじれてしまいますよね。軟骨が壊れたり、靭帯が傷つきやすくなってしまいます。

靭帯は筋肉と違って、硬いものです。動くものを止めるためにあるようなもので、シートベルトのように命綱でもあります。靭帯は傷つくとなかなか修復できないのでいろんな手術がなされています。

同じく、股関節も無理な圧力がかかると脱臼しかねません。

特にカエル足の状態は大腿骨が外転して股関節のジョイント部分がスライドしています。

その状態で、骨盤を上から押されると骨同士がぶつかったり外れたりして痛める可能性があります。

筋肉が自然に伸展するのとは違い、骨の構造的に弱い方向へ無理な力がかかるので危ない、と私は判断しています。

股関節が脱臼しそうになった経験

私は股関節が脱臼しかけたことがあります。たしか16〜17歳くらいに仰向けでストレッチをしていました。

ほとんど180度に開いた状態で顔の横につま先を持っていき、そこまではいつも通りだったのですが、いつもより外旋の力をかけた瞬間に股関節の大腿骨がぼろっとソケットから外れました。骨の位置がリアルに頭に浮かびました。

「あ、やっちゃった…」とすごく焦り、どうしよう!と1人でパニック!!

でも、冷静になり、整形外科で友人が脱臼したとき医師が手で直していたのを思い出したので、すぐさま脱臼しかけた大腿骨を股関節の凹みに戻し入れました。

関節の中でゴリっと摩擦して、ゾクゾクっとするイヤ〜〜な感覚が今でも忘れられません。

そのときは本当にありがたいことに、なんとか無事で損傷することもありませんでした。自力で直せなかったら、病院行くにも歩けないので救急車にお願いしていたでしょう。変にいじったらきっと靭帯も傷つけてしまっただろうと思うと、本当に勉強になりました。

(どうかマネはしないでください)

この経験をしてから、股関節は見た目のために外旋したくなるけれども、無理な力をかけたらいつかは脱臼するんだとわかりました。

カエル足ではありませんでしたが、股関節の脱臼の怖さを思い知りました。

ダンサーには、股関節痛を抱える人もいます。

私の家族はバレエとは無関係で股関節に障害があり人工関節を使って生活していて、大変さも知っています。

だから、見た目だけで憧れて、無理なことはしないようにしましょう。

さいごに

カエル足についての考え方は、先生によって違います。

私も医師ではありませんし、バレエは医学的研究が進むにつれて、数年するとまた新たに判明することが出てきます。

だからここに書いたことが必ず正しいかはわかりません。

ただダンサー人生では、医師に相談してもわからないことが出てくることもあります。

スポーツ整形の先生にみてもらっても原因不明な問題がある…というのは、多くのダンサーが経験することです。となると、判断するのは自分になります。

自分の体を守るには、未来に出てくる研究結果を待つ前に、今この瞬間から判断しなくてはなりません。

カエル足はアンドゥオールそのものではありません。カエル足をしなくても、内ももを伸ばしたり外旋する筋力を鍛える方法はあります。

もしもカエル足をして、筋肉の痛みではない変な違和感があるならば、上に書いたような危険性をもう一度考えてみてください。

ストレッチの方法だけでなく、安全性も知っていくことで、正しいやり方を考えていきましょう!