シェイクスピアが《ロミオとジュリエット》を書くまでに、実は元の作品が存在していました。
シェイクスピアが最初に書いたのだと思っている方も多いと思うのですが、初めて知ると驚きですよね。
シェイクスピアの人生には謎が多い
そもそもシェイクスピア(1564〜1616年)について、どんな人物だったのか?については、手紙も日記も残っていないため、わからないことばかりなのだそうです。
1564年 ウィリアム・シェイクスピアがイングランド中部で生まれる(裕福な半農半商の家の第三子)
1582年 18歳 アン・ハザウェイという女性と結婚
1594年 「ロミオとジュリエット」
1607年ごろ 舞台俳優を引退
1616年 ウィリアム・シェイクスピア亡くなる
《ロミオとジュリエット》の古いテキストは何人かの作家によって手を加えられてまとめられてきています。
この物語の特徴である敵同士の家の間に宿命的な恋愛が生まれ、悲劇に終わるという構造は世界広く古くから存在する構造です。
古代の物語で似ている類のもの
中でも眠り薬で結婚を回避するという構造は、紀元四世紀ごろのエペソスのクセノファネスという文人の物語にも出てくるそうです。ほかにも《ロミオとジュリエット》に似た構造の話はよく出てくるということは、人類はこのような類が好きだということでもあるのかもしれませんね。
16世紀イタリア語の物語
最初に物語として出版されたのはイタリアの「二人の高貴なる恋人の物語」(ルイジ・ダ・ポルタ作 1530年)で、ヴェローナを舞台にしてロメオ、ジュリエッタの登場人物がいて設定が共通しています。でも、細かいあらすじは大きく違っていました。以後、細かい設定ができた流れをまとめていきますので、その前はなかったのか!とイメージしてみてくださいね。
違い
乳母はいない
ロメオがヴェローナから追放される前に新婚の幸福な時間がある
ロメオが亡くなる前にジュリエッタが目を覚まして対話してから二人相果てる
など
つまり、シェークスピア版よりも物語の展開がゆとりがあり、ロマンスの盛り上がる幸せな時間があるというのは大きな違いですね。
そして、それ以降近似した物語が多々出てくるも、シェークスピア版に近づく一手となったのがイタリアの「小説集」(マッテオ・バンデルロ)の書いたものです。
ロザラインに相当する女性への片思いのくだり
ベンヴォーリオに相当する友人がロミオに他の女性に目を向けるように促す流れ
ロミオが仮装してキャピュレット家にしのびこむ
パリス伯爵(ジュリエットの親が決めた結婚相手)登場
縄梯子を使う
ジュリエットが寝室で一人で眠り薬を飲むこと
僧ロレンスの使者が伝染病で手紙を渡す任務に失敗すること
乳母
このような物語の大事なキャラクターやあらすじの構造はシェークスピア版にも多く受け継がれているのです。
フランス語版ブアトーの物語
その後まもなくフランスでは、ピエール・ブアトーが「悲話集」におさめて出版します。
薬屋
ジュリエットが目覚めた時はロミオが亡くなっている、だから短剣で自刃(じじん)する
という展開も生み出しています。
ということは、シェイクスピアが書く前からこの物語はほぼ存在していたのです。
直接元になったブルックの物語
こうした背景がありつつも、もっと直接的な元になっていると言われるのは、アーサー・ブルックの書いた英語の韻文詩「ロミウスとジュリエットの悲劇の物語」です。
(1562年)これは長い物語詩で4千行もあります。クリスマスの時期の話で、パリスとの結婚話は9月になるという、約9ヶ月もある物語でした。
シェイクスピア版に親しんでいる現代のわたしたちからすると、展開がゆっくりだなと思われると感じます。
シェイクスピアの書いた物語のポイント
ストーリーを9ヶ月から5日間に短縮した
シェイクスピア版では、わずか5日間の急展開な悲劇になりました。
幸福から悲劇へのドラマチックな展開がこの物語を成功させたとも言えるでしょう。
日曜日 朝9時 はじまり
夜 仮面舞踏会で出会う
月曜日午後 秘密の結婚
1時間後 運命が狂い始める
火曜日早朝 永遠の別れ
木曜日の深夜か金曜日 結末
ほかにシェイクスピアが加えた点
マキューシオ(恋愛、性愛のレベルで見ようとする)と乳母(俗っぽい性格)というキャラクターを効果的に設定した
悲劇の原因を「運命」(人間の力を超えたもの)に印象づけた 「不運の星」
ジュリエットをわずか14歳(16歳未満 14歳の誕生日目前)という設定にし、ロミオと出会って以降積極的な恋心を描いた
結婚へのイニシアティブをとったのはジュリエットの方
老いた親たちよりも分別のある修道僧ロレンスを引き立たせている
このような作家たちの創作活動が積み重なって今の作品が残っていることを知ると、みなさんも鑑賞するときや踊る時に感じ方が変わってくるかもしれませんね。
ちなみにこの時シェイクスピアは30歳!「ヘンリー六世」「リチャード三世」「間違いの喜劇」「恋の骨折り損」などを書いたあとです。人間に対する観察眼もひときわ鋭く、豊かであったことが伺えます。
参考にした本です。詳しく読みたい方はこちらをどうぞ