バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ

バレエヨガインストラクター三科絵理

悔しさをバネにする

あるときのレッスンで生徒さんから「同じことを先生に何度も注意されて、悔しさで自分が嫌になる」というお悩みを聞きました。

どう受け止めればいいのか。先生はきっと愛情から言っているのだろうともわかるけれど、注意されるたび硬くなってしまうのだということでした。

悔しいと思う背景には、「できるようになりたい」「できてもいいはずなのに失敗してしまった」という気持ちがやりきれなくなってしまうわけですよね。

プロの方々はどうやって乗り越えていくのでしょうかね、と話していらしたので、短時間で答えきれなかったこともあり、広くたくさんの読者さんを想像してざっくり書いてみます。

大前提で、注意してもらえるというのは伸び代を指摘してもらえているということです。生徒さんが成長してほしいから注意をしてくれているのです。そこだけはまず忘れないでほしいと思います。

プロの現実というと、シビアです(笑)。

バレエに限らずとも、1つのことをじっと鍛錬して身につける道の人はみなそうだと思いますが、打たれ強さが必要です。

それは子供のころから自然淘汰されていきます。耐えられない子はやめていってしまいます。(プロを養成する、あるいは趣味でも厳しい教室の場合)

打たれ強い子は注意されようとも、無駄に余計なことを悩みすぎず、むしろ注意されたことにまっすぐ向き合います。

感情と問題は切り分けなければなりません。

余計なことまで悩んでしまう大人バレリーナの方は…

「こんな曲に入らなければよかったかなあ」

「私よりも慣れていそうなあの人のほうが真ん中に来て欲しかったなあ」

「今さらバレエなんかやって意味あるかなぁ」

そうやってネガティブな気持ちを一般化させてしまい、暗い気持ちの対象を広げてしまうのです。

いま向き合うべきは、出来ないことを出来るようになろうとすること、それだけです。

でも、ダーツの的でいうならば、中心を見ようとせず、的の周りの壁ばっかり触っているような状況。そうやってバレエを辞めていく子もいます。でも冷静に、考えて、的の中心を見なければなりません。まず自分は的の中心と向き合っていたかを問い直してみましょう。

そして、何度も指示されている内容が何なのかを分析します。

これを自分で正しく理解できている大人バレリーナの方はあまりいません。残念ながら…。なぜなら、個人レッスンでふだんの教室の悩みを聞くと、大抵理解不足なことが多いのを見ているからです。

解説したり動きを何度も改善してようやく本人も納得して再現できるようになります。

例えば、振付の順番を間違えてしまう、右と左を間違える、回数を間違える、音楽を間違える、多くの間違いは、大抵注意不足のカテゴリーです。

膝を伸ばせるのに伸ばしてない、爪先がポアントにならないといけないところをフレックスになっている、ポールドブラの通り道を間違えてしまっている、なども注意不足です。間に合わないといけないところで遅くなるのも多くはこれです。

バレエの先生方は、注意不足によるミスについてはかなり厳しく指摘することが多いでしょう。特に発表会前の油断から生まれるミスなどは特にです。

なぜなら注意すれば直せるからです。

注意力が足りなくて気が抜けていたのならば、その箇所の注意を最大限に意識します。

それをひたすら反復して、自分で再現できるようにしなければなりません。

ジュニアからプロになっていく子はそれを乗り越える力が圧倒的に強いです。

プロは一般の人以上にそれに対する姿勢が律されているので、「逃げたら負け」という気持ちでのぞみます。

「自分では向き合っているつもりでも、本当は逃げていた」ということも自己認識するほど厳しさを持っています。

悔しいという気持ちに沈んでいては、向き合っているとは言えない。

悔しいから次は気をつけようと、行動を起こすところまでやってはじめて、向き合っていると言えます。

こんなことを言ったら鬼のように思うかもしれませんね。ただプロの現実の世界とはそういう次元です。

バレエの世界では自分から見て向き合っているつもりでも、もっと客観的に人から見ても「たしかに向き合ってきたね」と思われるレベルでないと、向き合っているとは言い切れない。それがバレエの厳格な世界です。

かといって、指導スタイルはそれぞれです。厳しい口調で一貫すれば冷や汗かきながらみんな必死になります。優しい口調で伝えると油断してしまう人も出てきてしまいます。私はそれもわかっていますが大人バレエで真剣に楽しく上達したいという方々ならば真剣な人ほど穏やかな指示の出し方でも、自己管理するので油断しなくなることも知っています。だから私は「笑顔で内容はスパルタ」と言われてしまいますが。(笑)

みなさんに注意している内容は割と同じことを言っていたりします。だから私のレッスンにきて「いつもの先生もこういうことを言いたかったんだと思いました」と言われることもあります。私も言葉を言い換えれば皆さんが怖がるレッスンになることでしょう(笑)。笑顔だからといっても私は甘やかしているつもりはありませんのでそれは誤解しないでほしいと思います。平気で普通以上の要求をよく出しているのもそのためです。私なりの教育工学的考え方が土台になっているので、短期的にも長期的にも判断してコミュニケーションをとっています。まあ、今回のテーマからは離れますのでまたの機会に。

それはさておき、大人バレエでプロになるわけでもないのにどうやって乗り越えたらいいのでしょう、というのがこの読者さんの大半であることでしょう。

プロの厳しい向き合い方のレベルまでは、実際できなくても良いのではないかあと個人的には思います。プロは仕事のために必要に迫られているのです。できるから凄いとか、自慢するというのはなんだか違うようにも思われます。

では何が一番優先したいかというと、注意力です。レッスンの指示の大半は注意力のことです。

注意力不足に起因するミステイクは自分の意識で改善できる可能性が高いので、より一層気を高くもって取り組みましょう。

ただ、勘違いしていること、先生の注意を正しく理解できていないこと、自分ではできていると思っていたことがはたから見るとそのレベルに達していないことも多々散見されます。先生とのコミュニケーションが不足してしまうような状況ならば(質問しにくい、個別で教わりにくい)多々あると思っておいたほうがよいと思います。早く知っていればそうしなかったのに、とか、ここまでやらないといけなかったのか、と悩みが消えることも多いでしょう。

一番難しいカテゴリーは、身体的なレベルです。身体能力が達していないのに求められている要求が高くてこなせない場合です。

片足でもまともに立てないのに、片足で二回転回らなくてはならず、出来なくてものすごく怒られる…というような(笑)まあ、ここまではないでしょうけれども、極端に言うとそういうことです。

あまりにもそんな状況でしかり続けるというのは、さすがに同情したくなるかもしれません。(無いとは言い切れない世界ですね)

ただ、こういうケースはあり得ます。

あなた自身にとっては「身体レベルが足りてない」と思っているけれども、先生からみると「注意力レベルの問題だ」というケースです。

初心者の方が、状況指摘だけで終わるような指示(具体的にどうすればいいのかを注意してもらえない)のときほど起こりやすいケースです。

「手が汚い」

「おなかが抜けてる」

「プリエが硬い」

「音から外れてる」

「立ててない」

バレエの理解が浅い人にこうした指示出しだと、背景知識が必要です。

こうした指示しか与えられないのならば、注意されていることの分析すらできないでしょう。

体に支障があるのに無理に開脚するようなことも同様です。

実際は、初心者のレベルに合わせる余裕がない教室も多くあります。

郷に入ったら郷に従うしかありません。

厳しい先生に師事するというのは、厳しいことを言うならば、ご自身が自らその環境を選んでいるということです。バレエに限らずなんでもそうですよね。

根性論で厳しさを乗り越えるということに疲弊していると、自己満足の慰めで終わってしまう…ということも。

もちろん、厳しさを乗り越えると、長い目で見てよかったと思えることもたくさんあります。悔しい思いをたくさんしたからバネにできた、成長できた、ということもたくさんあるでしょう。

でも、自分自身が押しつぶされるほど苦しくなってしまうのであれば、自分が変わる(できないことをできるようになる)か、自分を置く環境を変えるしかありません。先生のスタイルは変わらないわけですからね。

厳しいところに耐え抜いたということに自信を持つよりも、どんなレッスンであれトータルで見て自分自身が成長できたと思えることに自信を持ってほしいと私個人は思います。バレエを10年やって、厳しかったけど頑張ったなぁという自分もいいけれど、「こういうところがすごく伸びたなぁ」とポジティブな視点が建設的に開けることのほうが大切だろうと思うからです。厳しい先生であろうともしっかりついていける人は自分を変え、意識を変え、成長できたことに誇りを持っていくものです。

出演すると決めた発表会ならばやり抜くしかありません。舞台人は度胸と覚悟です。舞台人になると決めたのならやりきりましょう。

プロのダンサーたちだって、時には逃げ出したいほどプレッシャーを感じる舞台だってあります。でもやっぱり逃げないで強くなっていくものなのです。

私自身もたくさん向き合ってきたことなのでいろんなケースにいらっしゃる方のお気持ちはつぶさに感じとれます。

長くなりましたが、まずは注意されている内容を冷静に考えましょう。

あなたのことを否定しているわけではないはずです。先生も「何度も言っているけど、分かっていないのかな?」と気にかけて思っているかもしれません。黙っていないでアイコンタクトをとったり質問しにいったり「先生の指摘されたことは受け取っています」という姿勢も大切です。

注意力が足りないなら、それは何なのか。いつ、何をどのようにしなければならないのか。いつもはどうやってしまうのかを整理すること。

勘違いしていることはないかを考えてみること。

次のレッスンまでに工夫できるアクションを考えてみること。

とにかく余計なことまでネガティブな気持ちを一般化しすぎず、問題となる的を狙いましょう。ロジカルに分析しましょう。

ダンサーがロジカルに頭を使わないといけないのはそこです。

具体的なケースがわからないのでたくさんの事例を交えて書いてしまいました。

沸き起こる感情は外に出したほうがいい。

その上で、なにか行動をしましょう。考えているだけで行動しないように見えてしまうのは、なにもしていないのと同じように捉えられてしまいますからね。

泣いたっていいんです。

ネクストアクションを起こしていきましょう。