バレエ作品「さくら」新作を振り付けるまでの振付ストーリーを紹介していきます。
(1)音楽「愛の夢」リスト作曲を選ぶ
リスト作曲の「愛の夢」はピアノで有名な音楽です。聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
著名なピアニストさん方もよく演奏されていますので、耳にする機会も多いかもしれません。
バレエ「さくら」 振付 正面からの振り付け動画。
— Ballet Yoga 🎀 ERI 三科絵理 (@mishina_eri) June 4, 2022
この作品をレッスンで重ねて成長させて、いつか桜の下でみんながこれを踊れる日がやってくることを願ってる。https://t.co/Uhhjv5S1T5
「愛の夢」を選ぶことにした決め手
さくらの創作を始めたのは、2022年の4月上旬。まさに、桜が東京に咲き誇っていた時期でした。
「桜」に関するアートは多々ある中で、バレエという洋舞で桜を見たことはあまりありません。
日本で桜に関する芸術というと、日本古来の芸術作品が多いので、お箏の「さくら さくら」であったり、日本画らしいタッチの桜の方がイメージしやすいことにふと気づきました。
「大好きな桜というモチーフを、クラシックバレエの世界に置き換えるなら、どの音楽がいいだろう?」
私の脳内に浮かんだテーマが、桜にぴったりな音楽を見つけたいと、胸高鳴りました。
音楽の心境としては、「春が訪れた喜び」にフィットする感情がほしかったのですが、実際の桜並木を歩いていると、また違う桜の側面を感じた気がしました。
それは、「生と死」という儚さのリアルな重みです。
桜の花が舞い散るとき、美しいという気持ちと同時に切ない気持ちになったり、この一瞬が止まってずっと見続けていられたいいのにと思うことはありませんか?
それは桜の花に限らず、美しい芸術に酔いしれるときも似た感情が起こります。
映画や連載漫画でも「この世界観が終わって欲しくない」という感情があります。朝ドラが連載を終える頃に視聴者に「ロス現象」が起こるのも、余韻に浸り続けたいという気持ちが沸き起こるからでしょう。
桜並木で創作プロセスをしようとしたとき、感傷的な気持ちが私をおそいました。
ただ、きれい。ただ、すてき。と、言ってしまうのは簡単ですが、私がバレエで込めたいと思う感情はもっと複雑で、だからこそ人間らしい気もしました。
私はたくさんの写真や動画をスマホで撮影しながら、リアルに花びらが落ちていくスピードと、目に残したいと思う花びらの動線を重ねて眺めました。
桜の花びらが落ちるスピードを「秒速5センチメートル」と題名にした、新海誠監督のアニメーション映画がありますが、まさに絶妙な、なんて美しい切り取り方でしょう。
まさに秒速5センチメートルで散っていく桜の花びらの動きを見て、音楽を夢想しました。
歩きながら、頭に浮かんできたメロディーがありました。
それが「愛の夢」の冒頭でした。(引用 辻井伸行さんの演奏)
愛の夢は子供のころにフジコ・ヘミングさんのCDなどでよく聴いていたので、なつかしく、また今このん瞬間に生まれてきたのではないかと思うような新鮮さを感じました。
イヤホンで音楽をかけながら、東京の桜並木の下をゆっくり歩きました。
桜見物をしている人もいるので、イヤホンしながら散歩しているように見せておきながら、頭の中では100%バレエの振り付けを考えていました。
変な人に思われないかと内心思ったりもしましたが、みんな桜を見上げて撮影しているので、とても自然体でいられました。
通りかかった女性に「ふふ、きれいですよね」と声をかけてもらったときもありました。
「愛してください、愛しうる限り」という歌詞
リストの「愛の夢」第3番に込められた意味は、「愛してください、愛しうる限り」です。
詩人フライリヒラートの歌詞「O lieb so lang du lieben kannst」に合わせて、1845年ごろにリストが作曲しました。
O lieb,so lang du lieben kannst! O lieb,so lang du lieben magst! Die Stunde kommt,die Stunde kommt, Wo du an Gräbern stehst und klagst!
おお 愛しなさい、君が愛せるだけ! おお 愛しなさい、君が愛したいだけ! その時は来る、その時は来る 君が墓の前に立って歎く時が
よくよく調べてみると、こうした歌詞であったことに気づき、まさに私が表現したかった「美」「生と死」「愛」と心の中でぴたりと合致しました。
これに気づくまでは「愛の夢」と「桜」というモチーフがつながるとは思っていなかったのですが、私の創作プロセスにおいては、がっちりと辻褄が合う瞬間だったのです。
創作をしていて、音楽を決める瞬間というのは、その時によって変わります。
できるだけ音楽の成り立ちも表現したいイメージとふさわしいようにしたいと思うので、自分なりのロジックでかみあわせていきますが、どうしても折り合わないことも時にはあります。
そうすると、いくらメロディーやリズム感がよかったとしても、自分の中ではあきらめて他を探します。
作品を創作するということは、私にとって「すべてに意味がある状態」を作り出す作業です。
アートの世界やダンスの世界でもよく言われますが、絵筆や演者の動きひとつひとつに意味があって、逆に適当に見えたとしてもなんらかの意図があったり、そこに関係性が込められていたりもする。
私の創作作品でも、単に音楽に合わせましたということは無く、刺繍でいうなら一針一針縫い上げて一枚の絵を作っていくような気持ちです。
桜を見つめながら、愛の夢にしようと決断した後は、タスクを達成した思いで心が軽くなり、一層やるきにあふれていきました。
6/12(日)「さくら」バレエ作品を踊るレッスン ♪リスト「愛の夢」初級から参加OK
つづく
バレエ「さくら」の創作プロセス(2)現代アート「桜」ダミアン・ハースト展からの刺激 - バレエヨガインストラクター三科絵理のブログ